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第17回 河川情報センター講演会 講演記録
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第17回 河川情報センター講演会 講演記録

 マルチパラメータレーダによる大都市域の豪雨観測への期待

○開催日時 平成22年8月26日(木) 13:30〜15:30
○開催場所 愛知県産業労働センター(ウインクあいち)
○講  師 上田 博 氏
 名古屋大学地球水循環研究センター長 教授/博士(理学)
○講演内容
  ご紹介どうもありがとうございます。名古屋大学地球水循環研究センターの上田です。

 タイトルにありますように、「マルチパラメータレーダによる大都市域の豪雨観測への期待」ということで、いま河野さんのほうから紹介がありましたように、主にXバンドマルチパラメータレーダの画像をどう見たらいいかというようなお話をできるといいなと思っています。

 

 実は名古屋大学地球水循環研究センターでは、Xバンドのマルチパラメータレーダを2007年の11月に2台導入しまして、2008年の夏から本格的な観測を開始しました。そうしましたところ、2008年のうちに、2009年度予算でレーダーをつけるというのを河川局の方がやられまして、そのときに国総研の方、それから河川局の方と協力、私たちも少しアイデアを出すというようなことで協力して、2009年にもう予算がついて、今年度の7月から画像を一般にも発信することになったということで、非常にうれしく思っております。

 私たちは気象学の研究用にマルチパラメータレーダを使っているのですけれども、そのときに洪水予測、それから豪雨の予測、そういうことに役立つだろうと導入するときから言っていまして、それが正直言ってこんなに早く現業に使われるようになるとは思っていませんでした。

 いま画像を紹介されたように、設置してすぐもう皆さんに見せられるようなところまでなったというのは、非常にすごいことだなというふうに思っております。

 皆さんの手元に資料が配られていますが、ほぼそのとおりにスライドを用意しております。一部、今日追加したものもありますが、ほとんどこの資料にのっとっています。

 いま問題になっているのは、やはり最近豪雨が増えているのではないかということが言われています。特に大都市で多くなっているのではないかという懸念があります。

 その原因についてはいろいろ議論があるのですけれども、もし多くなっているとすると、それをきちっと監視し、予測する必要があると思います。そういうときに、ちょうどXバンドマルチパラメータレーダが現業で展開されて、データが配信されるということですので、それを上手に使ったらいいと思います。

 さらに、そういうシステムができると、次のことができるのではないかというふうに考えております。将来に向けての監視・予測方法の開発と実利用について、少し最後に展望を述べられるといいなと思います。

 今日の講演は、「X−バンドマルチパラメータレーダの一部画像が一般に公開されるタイミングに行われます。いまお話があったように、250mメッシュで1分間隔で降雨域を示そうということが始まったということです。ちょうどそういうのを7月の初めに配信されるようになって、一般に配信されていますので、私達もコンソーシアムに入って生データの配信を受けているのですけれども、一般に向けて出されている画像を見ています。

 これは7月13日ですが、7月14、15、16日と韓国の気象局に行って、15日に講演してまいりました。それで、あらかじめ日本はこんなことが始まったのだよという画像を持っていったわけです。

 ちょうど韓国で15日に講演したのですが、その日に例の可児の洪水があったわけです。そのときに日本では、例えば中部地区ですと3台のXバンドマルチパラメータレーダを合成して、こんなふうに非常に細かい降雨域が見られるようになりましたという話をしたわけですが、韓国の気象局では、今年の4月からレーダデータセンターというのをつくって、韓国の気象庁のドップラーレーダ、これもSバンドの波長10センチの大きなレーダーのネットワークが完成していましたが、それに韓国の建設省河川局のレーダー、これもドップラーレーダです。それから空軍のレーダーも、ドップラーレーダのデータも全部気象庁のレーダデータセンターに集めて配信するというのを始めました。大統領の肝入で始めたということです。まだ配信はしていないのですけれども、そういうことが始まりました。

 それで、私がここへ行きましたら、空軍の方も来られていて、「日本はどうなっていますか」という質問を受けました。日本はなかなかそうはいっていないわけですけれども、やはり日本は雨が大事なので、新しい取り組みを河川局がやられているのですよという紹介をしました。

 ドップラーレーダに関しては、日本はまだ気象庁がドップラーレーダ網を完成していませんので、韓国には大幅に遅れをとっていますし、中国は既に150台近くのドップラーレーダのネットワークが完成していて、日本は遅れているのですけれども、マルチパラメータレーダを使って実際に雨量、きちっと降水強度を測るというようなことは、まだ韓国も計画中です。実際には、ドップラーレーダのデータを集中的にとるようになった後は、今度はマルチパラメータレーダを導入してドップラーレーダと置きかえる計画だそうです。

 あとはベトナムとかマレーシアでもドップラーレーダは既にあるので、大都市用にマルチパラメータレーダを入れたいという検討を結構されているようです。

 そういう意味では、マルチパラメータレーダについては、アメリカでもそういう現業のものはありませんので、日本が世界に先駆けて始めたということで、非常に画期的だと思います。

 これは、先ほどご紹介がありましたけれども、概算要求されるときに、なぜマルチパラメータレーダが必要なのか、Xバンドなのかということの要求の説明資料です。私たちはちょうど2008年の8月末豪雨、この辺にこういうのがあった。そのときにはこういうところで積乱雲が発達して、こういうふうに線状降水域に沿って、我々は「セル」と言っていますけれども、それが並んでいます。一つ一つの積乱雲の塊、積乱雲が移動していく。そういうのを見るためには、伊勢湾あたりで発達するのをちゃんととらえなければいけないし、大都市の上では1台だけではなくて、3台でカバーする必要があります。ここは名古屋駅ですね。そういう必要があるということです。

 といいますのは、先ほどはきれいな合成画像になっているものをみせていただいたのですけれども、このあと説明しますように、Xバンドレーダの場合には、反射強度で見るときに減衰という問題があります。それを違う方向から見ることによって補い合って、きちっとした降水強度を示すようにする必要があります。例えばこんなふうにネットワークを作る必要があるのではないかということを、国総研の方、それから河川局の方と打ち合わせをしまして、ほぼそのとおりに設置されたと理解しております。

 このXバンドマルチパラメータレーダが有効であるというのは、実は防災科学技術研究所が関東の横浜のところ、神奈川県で既にデータをとっていまして、こういうレーダーですけれども、研究用のレーダーですので現業でやっているわけではないのですけれども、テストしていまして、こんなふうに有効だというのを示していました。

 それは、レーダーがここで、これが20キロ、40キロの範囲ですけれども、これは通常の反射強度、dBZという形で書いていて降水強度ではないのですけれども、赤くなると強い雨が降っているところというのを示しています。ここに降水域があって、もう一つここにも降水域があるわけですが、本当は、これは強い雨をもたらしているのですが、レーダーから見て、ここの強い雨の陰になっているので、あまり強い降水域には見えないですね。

 それをマルチパラメータレーダの一つのパラメータである、比偏波間位相差、KDP、という値で見ると、ちゃんとこれが見えます。それは後で少し詳しく説明しますけれども、この比偏波間位相差、KDP、というのは、その値に係数を掛けたりすることによって、降水強度に直すことができる量です。

 そうしますと、ここもちゃんと強い雨があるという値。これはその比偏波間位相差の値を書いているんですけれども、ここに遜色のない大きな値が出るということが得られております。これは、概算要求をする前にこういうデータが出されていて、論文になっているわけです。そういう背景がありました。

 いまそのXバンドとか、MPレーダ、マルチパラメータレーダというのを平気で使ってきているわけですが、ではXバンドって何でしょう、それからマルチパラメータレーダって何でしょうと、ちょっとだけアウトラインを説明しておきます。詳しいことは後で出てきます。

 Xバンドというのは、波長3.2cm付近の電波のことです。周波数でいうと9GHz、9,000MHzのマイクロ波のことです。先ほどCバンドのレーダーという話も出てきましたが、これは波長がこれと比べると大分長くて5.6cmのレーダーです。

 日本では、富士山の気象レーダーはSバンド、波長10cmでしたけれども、富士山から下ろしてしまいましたので、日本では気象観測、あるいは降雨観測に使っているSバンドのレーダーというのは現在存在しません。ただし、アメリカ、中国、韓国のほとんどがSバンドのレーダーです。これは広い範囲を見ようとしています。

 なぜSバンドじゃなくてCバンドになっているかといいますと、Sバンドですと同じ分解能、ビーム幅といいますが、それを出そうとすると、例えば1度のビーム幅にしよう、電波を絞ろうとすると、これですと直径10mのアンテナが必要になります。Cバンドですと直径5m程度のアンテナ、Xバンドですと2m程度でいいということなわけです。

 それから、分解能でいきますと、やはりSバンドでは高くすることは難しい。遠くは見えるんだけれども、ということがあります。Xバンドにすると高分解能になるという利点があるので、あえてXバンドにしたということがあります。

 高分解能になると、「降水セル」と書いていますけれども、先ほどの動画で出てきた、赤くなっている一つ一つの丸っこい部分ですね、それが降水セルと言っているものですけれども、それの一つ一つの構造がわかる。そして、それを例えば高時間分解能で1分ごとに追跡すると、発達段階がわかるというメリットがあります。ですから、波長としては3.2cmのXバンドを使うのが高分解能でメリットがあるということがあります。

 ただし、問題もあります。波長が短いと、大きな雨滴になると電波がその雨滴を乗り越えていけなくなって、減衰という問題があります。ですから、強い雨の後ろ側はもう電波が届かないという問題があります。

 それから、観測範囲がどうしても狭くなってくるという問題があります。で、観測範囲が狭いという問題は、実はネットワーク化することで解決できます。3台置いて相互に補うということで解決できるということになってきます。それで、中部地区でも3台置いているというわけです。名古屋の上空は3台全てがカバーしているということになります。

 それから同時に、Cバンドは減衰が少ないので、一緒に使うことによって大分解決できるわけです。

 もう一つは、降雨減衰が大きいということは、実はマルチパラメータでは非常に有利に働きます。では、マルチパラメータとは何かといいますと、まずふつうの通常の気象レーダー、河川局ではレーダー雨量計だとかという言い方をしますけれども、電波を出して戻ってくる電波の強さから雨の強さを見ようという反射強度を見るというもの。

 それから、ドップラー速度を測ろうというドップラーレーダがあります。ドップラーレーダというのは、反射強度とドップラー速度を1台で一緒に測れる。

 いままでも偏波レーダというのは実は存在していまして、二重偏波レーダと言われるレーダーがあります。それは、水平偏波と垂直偏波を出して、その戻ってくる反射強度、水平偏波で戻ってくる反射強度と、それから垂直偏波で戻ってくる反射強度の比をとって、それの対数をとったものが「レーダ反射因子差」と言われるものですけれども、そういうものが測られてきました。

 これは、土木研究所にいらした吉野さんという方が日本で最初に導入したものですが、ここまでは従来の技術としてありました。ただ、二重偏波レーダだけですと、減衰の効果が大きくて、なかなか定量的な雨量を測れなかったということがあって、しばらく現業に使われなかったのですが、ごく最近、電子技術が発達して、水平偏波と垂直偏波を前はパルスごとに切りかえていたのですが、それが同時に出せるようになったということがあります。そうすると、今度はここに書いているような新しいパラメータがとれるようになったわけです。

 当然マルチパラメータレーダというのは、従来の反射強度、ドップラー速度、それからレーダ反射因子差、これは雨滴などのつぶれ具合を見るものですけれども、そういうものが全部見られるようになった。これがマルチパラメータレーダ、1台で全部のパラメータが見られるようになったわけです。

 そのときの、ここの偏波間位相差、これは、実はこの減衰があるということを使っています。その話はもう少し後になりますけれども、Xバンドで減衰が大きいのを逆手にとって、このパラメータが非常に測りやすいという特徴を使うことによって、Xバンドのマルチパラメータレーダのメリットが出てくるというわけです。

 こういうパラメータが測れると、従来ですと、反射強度で降雨域の監視、それから降雨強度の推定というのをやっていましたし、それからドップラーレーダで風の監視もしようとしていたのに対して、このマルチパラメータレーダになると、降水粒子の種類とか形状の識別もできるようになりました。それで、今度は降雨強度の正確な推定ができるようになりました。

 これは、このパラメータですね。このパラメータを先ほど防災科学技術研究所の例で示したように、これを使って正確な降雨量の推定ができるようになったことによるわけです。

 では、マルチパラメータレーダは非常にいいので、もう全てハッピーかというと、必ずしもそうじゃなくて、測定できるパラメータが非常に多くなりましたので、非常に複雑です。ですから、従来の技術そのままで、レーダーをつければ全部解決できるかというと、そうではなくて、新たなソフトウエアの開発が必要になりました。

 そこで、私たちのように気象を専門としている者でも、国交省のレーダーの運用に協力してほしいということを言われて、ここの部分的に新しいソフトウエアの開発ということに協力させていただいているわけです。

 たくさんありますけれども、まず最初に、高分解能になったという意味ですけれども、どういうことかと言いますと、ふつうレーダーから電波を出すときに、遠くになるとだんだん電波を絞っているんですけれども、それが広がっていきます。それで、Xバンドでも、Cバンドでも、Sバンドでも、大体1度くらいのビーム幅に絞ります。そうするとこういう、60kmのところで0.5km、それから120kmで1km、140kmになると2kmくらいの幅のところを同時に見るようになります。例えばこの辺で切り取ってみますと、距離方向には100mとか150mの分解能をとることができるのですけれども、ビーム幅の方向ですと、近くだと100mにすることができますけれども、遠くになると2kmになってしまいます。こういう体積の中に雨滴があるんですね。ですから、遠くになるとたくさん雨滴があるところ、広い範囲のところをある1地点として見るわけです。

 先ほど250mの分解能になりましたということは、実はいろいろな工夫をしていまして、大体1台で60km以内のところ、だからこの辺のデータを使って合成することによって、分解能を上げていますよということです。

 もちろん距離方向の分解能というのは、実はパルスを長くすることから、Sバンドとかというのはこの分解能がちょっと悪いんですけれども、300mとかになってしまうんですけれども、Cバンドでも150mくらいにすることは可能ですし、Xバンドですと100mくらいの距離方向では分解能にすることができる。

 だから、250mしかできないというのは、一つはこういう問題です。

 それから、もう一つは、実はこの100mというのは一点一点なんですけれども、マルチパラメータレーダで得意なのは偏波間位相差、比偏波間位相差とか、我々は偏波間位相差変化率と言っていますけれども、そういう値は、この一点だけではだめで、5点とか9点とかの移動平均をするとかというようなことをしてやりますので、どうしてもこの方法も分解能が悪くなるという問題があります。

 ですけれども、ビーム幅があって、近くならばビーム幅の狭いところにビームが当たっているところのデータが使える。それから、距離方向には、大体一点一点の分解能としては100mか150mは可能なんだ、そういうデータを使っているんだというふうに理解してください。

 こういうのを予備知識として、ではレーダーで何がどう測れるかという話をしますが、そういう話をする前にもうちょっと、豪雨を見るのに、あるいは都市の豪雨を見るのにいいというレーダーですので、では、その豪雨の問題というのがどういうふうになっているのかというのをちょっとだけ見てみましょう。

 これは、よくいろいろなところに引用されているんですけれども、昭和20年からずっと毎年の自然災害による死者数・行方不明者数ですけれども、平成7年に阪神淡路大震災があったので、地震でたくさんの方が亡くなったり行方不明になっていますが、それ以外のときは大体100人とか200人くらいです。

 その多くがこの青で示している風水害です。ここが200人ですから、この16年は風水害で、いろいろな大雨があって死者・行方不明者が多くなっていますが、年々100人くらいのところがずっと続いています。雪氷災害が多い年もありますけれども、やはり風水害の死者というのが一番多いんですね。

 もちろんここに来られた方は皆さん、風水害による物的な被害額というのは大きいんだというのはご存じのとおりです。ですから死者・行方不明者を少なくするというのはもちろんですけれども、そういう施設等の被害を少なくするというのも大事ですので、マルチパラメータレーダというのは非常に大事だというふうに思っております。

 では、豪雨というのは、最近話題になりますけれども、もともといろいろな豪雨がありました。これは過去からずっと並べてみたんですけれども、以前は、ここに岐阜県の災害というのがありますけれども、諫早豪雨など西日本が多かった。この後も長崎県豪雨というのがありまして、我々学生のときに、北海道あるいは名古屋からレーダーを持っていって九州で観測しました。

 ところが、2000年に東海豪雨があって、2008年には8月末豪雨、これは関東にもありましたけれども、非常に大雨が中部地区でもあります。私は2001年の1月1日から名古屋なので、東海豪雨のときはいなかったのですけれども、名古屋周辺というのは非常に豪雨が最近ある、というのが強い印象です。

 豪雨というのをどういうふうに見るかですけれども、これもよく使われるものですけれども、1時間に50ミリ以上の雨が大体豪雨かなというふうに見ると、最近の10年、ここの赤線で縦軸に何回、気象庁で見ているアメダスポイントの中で何件あるかということですけれども、このように、前の10年、ここは余り変わらないんですけれども、98年から10年間でいくとぐっと増えているんじゃないかということです。これが、これくらい増えているとやはり増えていると言わざるを得ないかなというふうに言われています。

 これが地球温暖化とどう関係しているか、あるいは関係していないかというのはいろいろな議論があるところなんですけれども、こういう増えてそうだという事実はちゃんととらえる必要がありますし、30年で気候値として見ますから、この後どうなるかというのはわからないところがあるんですけれども、最近のこの傾向というのは注目しなければいけないと思います。

 新聞等ですと、「ゲリラ豪雨」とか「集中豪雨」とか、いろいろな言葉が使われるのですが、学問的には、科学的には、豪雨というものの定義というのは必ずしもちゃんとできていないんです。ただ、やはり皆さんネットで『ウィキペディア』を見たりしますから、そういう表現が大事で、そうすると、目安としては10kmとか数10kmの範囲に1時間に雨量が50ミリを超えるというような定義をされています。

 それから、元気象庁長官の二宮さんの『気象科学事典』なんかですと、平年値に比べて降雨が多くて、災害が発生するほどの降雨量を大雨とか豪雨とか呼びましょうというふうに言っていて、ただ気象学的な定義はないんですということになっています。

 でも、いまの気象庁の出している統計とかでいきますと、大体時間雨量50ミリを超えるかどうかというのが目安です。それは、下水の方たちが昔は時間雨量30ミリの配管をつくったのが、全部50ミリに取りかえた。それでも、時間雨量50ミリにしても追いつかないこともあるので、それをどうしようかという議論がいまなされていると思うんですけれども、そこが目安ですね。

 この50ミリを基準にして、では大雨の発生機構とかを考えようとするときに、どういうふうに大雨が発生するかというと、非常に発達した積乱雲、例えば一つの積乱雲があったとしたら、そこからどっと50ミリということは、実はあり得るんですね。

 そのほかにも、1時間で50ミリになるというのは、一つ一つの積乱雲はそれほど大きくはない、あるいは背は高くないんだけれども、それが同じ場所に次々に襲っていくということになると、1時間で50ミリを超えることがありますし、そういうのが3時間、5時間続くということがあり得るということなんです。

 そのときに、以前は例えばCバンドの粗いレーダーの画像で見ていると、強い雨の範囲がここら辺にあるなということはわかっていたんですけれども、一つ一つの積乱雲を見ていなかったので、複数の積乱雲が次々にきて大雨になっているのか、それとも一つの積乱雲が異常に発達して、そこにどっと雨を降らせているかというのがよくわからなかったんです。

 今度、Xバンドマルチパラメータレーダができて、分解能が上がりました。それで見ていると、そういう一つ一つの積乱雲が見られるようになりました。

 それと、もう一つ画期的なことは、一般に配信されているデータは、いまは、ある高さのところの平面的な降雨域の分布ですけれども、実は三次元的にデータをとっています。高さ方向の情報も実はとっていまして、いま研究では、レーダデータ見てどう使おうかというのを検討しています。

 今年の7月からXバンドマルチパラメータレーダがとれるようになりましたので、ではそういうレーダーで見ると8月末豪雨というのはどう見えるかというのは、この後ちょっとだけ紹介したいと思います。

 東海豪雨のときはそういうのはなかったので、そのときはどこまでしか見えていなかったかという話を紹介したいと思います。

 雨の降り方というのは、西日本で大きくて、北日本ほど小さいというのは皆さんよくご存じなので、ここのところは省略したいと思います。

 そういうときに、ちょっと話が戻りますけれども、温暖化して豪雨が多くなっているのではないかという話をするときに、温暖化と雨というのは関係をつけるのは非常に難しいということを、ちょっとだけ触れておきたいと思います。

 というのは、これは気象衛星がどんどん上げられるようになって、いろいろな衛星のデータを使って、それと地上の雨量計のデータなんかも使って、合成して1年の降雨量がどこでどの程度あるかという分布を書いたものですが、衛星のデータを使うと、ここが赤道で、ここが日本ですけれども、この太平洋の上に赤くなっているところが多いということがわかるようになりました。

 それで、日本付近の主に梅雨期、台風のときに雨が降っている、黄色くなっているところは多いということですけれども、そういうことがわかります。

 ところが、温暖化して気温が上がるというのは、全球平均ですから、地球全部平均して高くなっている。ということは、ほとんどのところで平均気温が上がっているということですけれども、雨の場合には、こういうふうに海の上だとほとんど真っ白で、ほとんど降らないというところがあるんです。また、降るところは非常に降る、集中している。

 そういうのを全部地球上平均してどういう意味があるかという問題がある。例えば弱い雨のところは年間10ミリなんだけれども、それが20ミリ降るようになりました、2倍になりましたというのと、1,000ミリ降るところに2,000ミリになりました、2倍になりましたというのと全然意味が違うんですね。

 ですから、雨については、そういう温暖化との関係を議論するのは非常に難しいということをわかっておいていただきたいと思います。では、温暖化したからどうこうという原因ではなくて、その豪雨というのがどういう降り方なのか、どういう降り方かがわかれば予測もできるのではないか。その予測というのも、3時間前からわかってほしいのか、前の日からどこでどの程度の豪雨があるかというのを予測したいのか、という希望はあると思うのですけれども、実際はどれくらいまでの予測なら可能性があるかという話をこの後少しできればいいと思います。

 温暖化によって気温は上がっています、海水面も上がっています、雪氷の面積は下がっています。で、温暖化しているんだと言っているわけですけれども、雨というのはわかりづらいということです。

 日本全体のアメダスのデータを使って、2000年まで毎年の雨量を出して、年々変動しているんですけれども、5年平均の赤線をみると、最近日本で増えているというのは必ずしも言えないというデータがあります。

 では、場所ごとにどうかというと、この緑色で示したのは大きい丸ほど、1961年から2000年の前のほうと後のほうで増えているかどうかというものですね。この茶色っぽいほうは減っているところですけれども、年で見ると関東地方と九州は増えているけれども、関西、名古屋付近も減っている方向です。

 それを夏で見ると、こちらのほうは減っていて関東は増えているというのははっきりしていて、冬で見ると、日本海側は降水量は減っているということがわかります。日本の中でもこれだけ増えているところ、減っているところというのが、年降水量で見て違います。

 では、その年降水量で増えているところは大雨が増えているのかどうかという問題もあるんですね。そういう目でちゃんと見るためには、きちっとしたデータを蓄積しておく必要があるということです。

 これは夏ですね。夏だと顕著に関東地方が次々と2回ほど降っています。こっちで減っていてこっちで増えていて顕著なわけですけれども、大雨というのは必ずしもこういうところで、こっちだけで増えているわけではないです。

 それで、これは2000年までのデータですけれども、名古屋は2000年以降変化しているかもしれません。

 そういうことを考えたときに、1年を通して雨量が増えているかどうかじゃなくて、豪雨というのは1時間とか数時間の間に起きますので、ではそういうときにどんなふうに雨が降っているかというのを考えておきたいと思います。
 これはよくいろいろなところで説明する図なんですけれども、先ほど豪雨というのは積乱雲一つが非常に発達してざっと降る。あるいは幾つかの積乱雲が同じところに次々に雨をもたらすということを言いました。一つ一つはやはり積乱雲ですね。

 では、積乱雲の中にどれくらい雨ができるかというのを見てみますと、積乱雲ができるところというのは、例えば冷たい空気と温かい空気がぶつかって、ここに上昇流ができる。例えば停滞前線があると、温かくて湿ったのが持ち上げられてここで雨になるということですけれども、例えば重さ1kgの空気を考えます。それは1立方メーターなんですけれども、その気温が27度で90%ですと、その中に湿度は21g含まれている。それが上空5,500mのところ、0℃のところに上がって、100%になると含み得る水蒸気は4gですので、残りの17gは水蒸気でいられなくて、雲粒あるいは雨になるんですね。

 雲になっている部分もありますから、1立方メーター(1kg)の空気の中の17gが全部雨になるわけではないのですけれども、例えば2g雨になったと考えます。例えば地上から5kmのところ、500mから5,500mでもいいです。その5kmの中に2gの雨があって、1m×1m×1mの中に2gの雨があって、それが5kmの高さにある。それが雨が浮かんでいて、上昇流で支えきれなくてどっと落ちた。それが1時間の間に落ちたとすると、2gずつ1立方メーターの中にある。それが5kmあるとちょうど10ミリの雨になります。

 30ミリの雨になるためには、平均的にですけれども、1m×1m×1mの中に6gあるということになるんですけれども、そういうことは現実にはありえますが稀です。

 それが50ミリの雨になるためには、相当何かしないといけない。なので、ふつうは積乱雲が1時間の間に幾つか入っていって、同じところにきて雨を降らせる。あるいは積乱雲が非常に発達して、上空に霰ができて、支え切れなくなった霰がどっと落ちてきて、雨になって一挙に落ちてくるということが必要になるわけです。

 そういうことを考えたときに、レーダーでどう見るかというのを図で示します。ふつう積乱雲というのは一つ一つ、最初ここに風が収束して上昇気流ができる。あるいは地表面が温められて、プルームと言いますけれども、温かい空気の塊が上がる。そうすると、水蒸気が入った空気が冷やされて雲ができる。

 それから、ちょっと後で、この影をつけた部分がレーダーで見える。レーダーは雨を見ていますので、雨ができるということになる。それからもうちょっとしたら、今度は濃くしたのは強い雨のところですね。雨のところはここまでで、下までは雨はこないけれども、上空には雨があるということになります。

 それが時間的には、上のほうにも雨域が広がるし、下のほうにも雨域が広がって落ちてくる。それで、最盛期だと強いところは落ちてくるんだけれども、強い雨がまだある。衰退期になると、これが雲自体も消えていって、雨だけが下のほうにいくという形になる。

 そのときに、雨が地上に降ってくるタイミングで、雨粒が下りてくると、回りの空気が100%でないと蒸発して空気を冷やして、冷たい空気も落ちてくるので、冷たい空気が押し出すということがあります。冷気流が地上に押し出すということになるわけです。

 この冷気流の先端に新しい積乱雲ができるということがあるんですが、こういう雨の高さ方向の変化をレーダーで見ると、ここの線で書いた、例えばこれが2kmだとします。気象庁のレーダーの画像というのは2kmの高さのところにどれだけ雨があるかという表現をしています。実際は2kmを見ている。この2kmを見ると、この段階になっても、雨ができ始めても見えるか見えないか、ここだと地上に雨が降る前からここに降水域があるというのがわかるんです。

 この辺だと、地上に降っている以上に強い値を出す。けれども、この辺になると、地上では強く降っていても、ここではもう弱まっているという可能性があるんですね。

 地方整備局のどこでももう少し下のほうを見ていまして、できるだけ低いところを見ようとしています。地上の雨量計と、できるだけ低いところのレーダーのエコーを比べようとしているわけです。そうすると、レーダーを見ると、地上の雨に近いところ。

 今回のマルチパラメータレーダの画像というのも、できるだけ低いところを見た情報を使う。1分おきに低いところのレーダーを取り込んで画像として出しているという工夫をしているんです。

 こういうふうに低いところだけを見ると、今度は地上の雨には近いかもしれないけれども、こういう段階から発達していくところの雨域というのは見落としてしまうんですね。それで、いまこういう低いところは毎分データを出しますけれども、この上のほうも、例えば5分間隔ではこういうところ、こういうところというのを見るようにしています。

 これは一般には配信されませんけれども、研究者グループにはデータを送って、それを研究して、そういう上空の情報をどう使うかというのをいま研究している。3年後には、そういうのも含めて、より降水強度の正確な情報を出す、あるいは予測情報に使おうとしているというわけです。

 結局、豪雨というのを考えるときには、こういうところをレーダーでとらえたのが、単位時間当たりどれだけ降水量があるかという部分で、その降水がどれだけ続いているか、同じところに降るかということですね。こういうふうにずっと雨を降らせるものも、同じところに降水エコー、レーダーでとらえた降水域がとどまっていれば、このときから、この日からずっと降っているわけです。

 ところが、ふつうは、さっきも見ていただいたように、こういう積乱雲というのは移動していきますので、本当に場所ごとに違うように、こういうふうに時間的に動いていけば、その雨量計があるところ、自分がいるところの上を通過したときだけ強い雨が降るということになるので、豪雨にはならないということですね。

 ということなので、こういう一つ一つの積乱雲がどの程度強い雨を持っているか、それが次々に同じところにくるか、それとも早く動くんだけれども、本当に背が高くて、高いところにたくさんたまっていた雨がどんと落ちてくるかというのを識別するということが非常に大事になってくるというわけです。そういう機能を国交省のXバンドマルチパラメータレーダは持っているということです。

 そういうことが、昔から豪雨は実はあったんだけれども、その中身というのは実はよくわかりませんでした。これはよく使われる豪雨の例ですけれども、長崎豪雨ですね。長崎があって諫早湾があって、ここに24時間で600ミリの雨が降った。1時間雨量で100ミリ程度というのが3回ですから、3時間でもう300ミリ降っていますけれども、このときというのは、実はこの形を見てもらうとわかるように、こういうふうになっています。まだこのときはちゃんとしたレーダーのデータがないのでよくわかっていないんですけれども、こういうふうに次々に積乱雲が入っていくのと、ここに停滞していた降雨域がちょうど重なるところがすごくなっているんです。

 ここで長崎豪雨が起きた後だいぶたってから、長崎県、それから熊本県とかにレーダーを持っていって観測したら、どうもそういうことが起きているということがわかってきました。

 この長崎豪雨のときは、使えるデータとしては衛星データでしたので、こういうふうに低気圧があって、この梅雨前線の上を積乱雲の塊を衛星で見た雲域で見て、これがこういうところにきたというふうに見ています。

 時間的に見ると、ここが九州ですけれども、ここにあった衛星の雲ですね。白いところが背が高いところ、これがどんどん発達していって、発達しながら長崎県のところを襲う。ちょうどこういうのが通過するときに、3時間の間にすごい雨が降った。1日では500ミリか600ミリになるんですけれども、この広い雲域の中のどこでどういうふうに雨が降ったか、よくわからなかったんです。

 こんなイメージとして論文になっているんです。

 東海豪雨のときになると、このときにはたくさんレーダーがありましたので、レーダーの画像は見ています。このときは天気図でいくと、台風があって、秋雨前線、停滞前線があって、こういうふうに下層は南東風が吹く。水蒸気をたくさん含んだ湿った空気が南東からどんどん名古屋のほうに入ってきた。

 衛星で見ると、この赤いところが背の高い雲ですね。そういう雲の塊が幾つも名古屋の上を通過していったということですけれども、こういう雲の塊の下に、レーダーで見るとずっとほとんど停滞していたということがわかります。

 ですから、例えば時間雨量で見ると93ミリ、それから50ミリ近く、70ミリ以上というのが3時間くらい。それで、その後また40ミリとかというのになるんですけれども、全体で563ミリなんです。すごいのはやはり大体3時間くらいです。

 このときに、中部電力、気象庁、それから中部地整のレーダー網があって、これで見ると、ちゃんと見ていると結構わかりそうなものなんですけれども、やはりこのときは高さ方向の情報がなかったんですね。

 ですけれども、気象庁の例えば2キロのレーダーの画像を見ますと、レーダーとアメダスと合成しているんですけれども、この辺が名古屋ですけれども、この赤いところに注目していただきますと、11時10分から20分ごとにこういうふうに強いところは赤い色で書いています。そういうふうに見ますと、同じところに2時間、3時間いる。

 それで、今度東海地方の概念図でかきますと、この伊勢湾から伊勢志摩のところに収束線、南東風と鈴鹿とかを越えてくるような西風成分を持ったものと南東風とがぶつかって、ここに収束線と言われる空気がぶつかってくる線が停滞していて、その上に上昇流ができて、積乱雲が発達する。

 伊勢志摩のところだと背が低いんだけれども、伊勢湾で発達していって、ちょうど発達し切った後、名古屋、東海市にその積乱雲が当たって、そこでザーと降ってしまった。エコーで見ると北のほうには層状のしとしと雨としては広がるんですけれども、積乱雲のコア、降水セルのところはこの辺で終わっている。

 このときに高さ方向の情報がちゃんとあって、この辺では背は低いけれども、だんだん発達しながら、この線の上を降水セルが、一つ一つの積乱雲が線状にずっと名古屋、東海市のほうに向けて進んでいるというのがわかっているんですね。もうちょっと予測ができるとすごいことになっているというのがわかったと思うんですけれども、当時のレーダーの画像だけですと、そういうことはなかなかわからなかった。

 これもそういうメカニズムですね。

 そういうことで、いまマルチパラメータレーダが入ったということは、ちゃんと見れるようになった。まだ低いところの降水域、エコーだけなので、その高さ方向の情報というのは一般には公開されていないんですけれども、3年後に、これは研究者の責任ですけれども、そういう情報も使って発達の予測もしなければいけないということになると、もう「ゲリラ豪雨」という言葉が新聞なんかでは出てこなくなるんじゃないかなと思うんです。

 いま世の中を混乱させているのは、大雨という言葉があって、豪雨があって、集中豪雨があって、ゲリラ豪雨というのがあります。それで、報道の方は、NHKの方は余り言わないと思うんですけれども、皆さん「ゲリラ豪雨」というのが好きなようです。ざっと見て、今日の参加者で「ゲリラ」というのはよくわかっている方は多そうですけれども、若い方は「ゲリラ」というのはイメージがあまりないんですね。私は子どもから学生のときに「ゲリラ」というのは報道でよく出てきた。

 「ゲリラ」というのは、神出鬼没で、攻められたところというのは、いつゲリラが出てくるかというのがわからないということですね。

 ですから、まだ雨量計のデータが十分完備していない、あるいはレーダーで面的に見ていないときには、雨量計はあっても、雨量計のないところにすごい強い雨が降って被害が出てくる。

 それからレーダーも、まだちゃんとデジタルレーダになっていなくて、強い雨かどうかというのもそんなにわからなかった時代だと、知らないうちに雨が降っていたということがあるので、もしゲリラ豪雨と言っても、それは当たっているかもしれないけれども、いまの状況ですと、例えば1kmのメッシュで5分とか10分間隔では、どこに雨が降ったかというのがわかるわけだから、ゲリラ豪雨という言葉に当たらないと思うんです。

 ただ、高さ方向の情報がちゃんとなくて見えていないとすると、ある高さだけ見ていると、発達しているのを見逃しているとか、予測しなかったほど降ったということで、まだいまだとゲリラ豪雨は許されるかもしれないけれども、今度三次元的な情報が常時入っていて、それを処理してデータを出すとなると、知らないうちに降っていたということはあり得ない話なので、ゲリラ豪雨というのが新聞やテレビとかで出てきたということは、河川管理者、あるいは水の管理者としては恥ずかしいことというふうになるのではないかと思います。

 でも、もしそれが本当にゲリラ豪雨だったら、それは新しい現象が起きたということ。というのは、例えば1キロ未満くらいのすごい雨が集中しているところがあったというようなことになってしまいますから、それが例えば1分の間にすごく狭いところに降って、レーダーで見てもわからなかったとか、そういう話になるので、それはもう気象学の革命が起きる話になると思うんです。

 そういうことですので、恐らくこの国交省のマルチパラメータレーダができて、何年か後には「ゲリラ豪雨」という言葉は使われなくなるんじゃないかというふうに思います。

 ただし、「豪雨」というのはあり得ると思うんですね。例えば時間雨量50ミリを超えるような雨を豪雨と言うのであれば、それはなくならないし、ひょっとすると増えるかもしれない。

 それから、「集中豪雨」という言葉もあり得ると思うんです。豪雨というのが例えば時間雨量50ミリだとすると、それが例えば気象庁の17キロ間隔の雨量計のところだと、1点だけで起きるようなのを集中豪雨ということであれば、集中豪雨はあるでしょう。

 今度はでも、概念が変わってくるかもしれないですね。マルチパラメータレーダで見ると、雨量計のあるところが何点かではなくて、例えば250mのメッシュで見ていて、1時間に50ミリ相当の雨が降ったところは、コンター図でかくと幾つもまとまった地域になっていて、そのうちのメッシュが何点あったかとかという情報になるんじゃないかというふうに思っています。

 そういうふうになると、では、やはりレーダーを見て豪雨というのも定義し直そうということになると思います。ではレーダーで何が測れるかという話をしたいと思います。

 大分時間が進んできましたけれども、ちょっと詳しい話になる前に、ここまででもし何かわからなかったということがあれば、質問を受けたいと思いますが、よろしいですか。

 ちょっと私の勝手な思い込みで話をしていますけれども、それを言われても言葉がわからないとか、それを言っておいてもらうと後の話が聞きやすいということありませんか。

 では、最後に質問の時間をまたちょっと置くようにして、できるだけ質問時間を残してお話ししたいと思います。

 では、レーダーですけれども、レーダーというのは、Radio detection and ranging、RADARをつないだものです。電波を使ってターゲットを見つけて、そこのターゲットの距離を測る。それで、気象学会ですと「レーダー」と伸ばすんですけれども、土木とか工学の分野ですと「レーダ」というふうにふつう日本語では書いています。私のこの図の中でも、気象をやっている出世さんがこの図をつくってくれているので「レーダー」です。それで、マルチパラメータレーダは「レーダ」となります。今日の私がつくった部分は基本的には「レーダー」と書くようにしているんです。

 レーダーは、このパラボラアンテナのところから電波を出すわけですけれども、使っている電波というのは3GHz、波長でいくと1cmから10cm、この付近のマイクロ波といわれる電波を使っています。それから、テレビのUHF、VHFという、その波長の長いのから比べると、波長がずっと短いということです。そこにCバンド、Xバンド、Kuバンドとかというふうに、だんだん波長が短くなるとそういうふうに名前が変わっていくんです。これはどうも軍の言葉で、暗号みたいにXとか使っている。なぜXかという理由を調べたんですけれども、本当のことはよくわかりませんでした。だれか知っている方がいたら教えてほしいんですけれども。

 そういうことで、我々9,400とか9,375MHzというレーダーを使って、ほぼ波長としては3.2cm、2台でやっているんですけれども、この図をつくってくれた出世さんが、沖縄にある、日本で最初のマルチパラメータレーダ、ここにCOBRAとあります。Cバンドと比較して図をつくってくれました。

 いま波長帯が、マイクロ波というのは情報通信で使っている周波数帯なので、できるだけ情報通信のように気象観測の周波数を割り振らない、狭めようとしているんです。レーダーも性能のいいものにして帯域幅を狭めようという圧力がいま高まっているのですが、それはともかく、マルチパラメータレーダでどういうことをしているかというと、水平偏波と垂直偏波と2つつくっている。

 ふつうの気象レーダー、降雨レーダーは電界変化が水平面にあります。こっちに電波が出ていく方向だと思ってください。電界の変化が横の方向に振動面を持つものを水平偏波と言います。もちろん磁界の変化はそれに直交する方向にあります。同時に水平偏波に対して直交する方向に電界が変化する、垂直偏波というものを出しているんです。

 以前の二重偏波レーダーは、水平偏波を出して、次に垂直偏波を出すというように切りかえていましたが、いまは両方を同時に出しています。

 レーダーから、いま送信機からこっちに電波を出して、ターゲットに当たって電波が戻ってきたら、受信機を入れて信号処理することをしているんですけれども、そのときに、実はアンテナは共通ですので、電波を切りかえる。パルスを例えば1μsecとか2μsecという電波を出すと、すぐここを切りかえて今度は受信しますよという、送信波をここのところだけ出して、それ以外のときはこっち側にいくように待ち構えているということをしています。

 これがふつうですと1μsecです。300mくらいの距離に相当しますが、それくらいの電波を出す。

 それで、名古屋大学の場合は、近いところと遠いところと波長の違うものを使っておりますという図ですが、これはちょっと複雑なので、この中身は言わなくて、実は先ほど言った周波数の割り当ての制限から、できるだけ周波数の帯域を狭めようということで、いままでレーダーはマグネトロンだとかクライストロンとかという発信管を使っていたのですけれども、そうじゃなくて固体素子、トランジスタを使うようになりました。そのために特殊な工夫をして、名古屋大学では、波長は長いけれども、周波数をちょっとだけ振って、距離分解能を上げるというような工夫をしているというのを紹介します。

 これは、国交省の中では、中部地区は全部クライストロンですけれども、関西で1台だけ固体素子のレーダー、名古屋大学と同じようなレーダーを入れています。今度できる西日本のものはそういうレーダーも入れるというふうに聞いております。その話はまた何か別の機会にいたします。

 そういうことで、こっちは時間軸、こっちは距離ですけれども、まず電波を出して、ターゲットがここにあったとすると、この時間のときにあったら、今度はそれが反射してきて戻ってくる。距離はここですね。ですから、実際には行って返ってくることになるんですけれども、その時間に光速を掛けて半分にしたのが距離だというふうにしています。

 ですから、パルスを次々に出してきますので、例えば1秒間に1,000回だと1msecごとにパルスを出すわけですね。ですから1μsec、1,000分の1msecの間は電波を出すんですけれども、ほとんどの時間は受信で待っているということです。それで、待っているときにどこからくるかということで、この時間を測って距離を測る。

 なので、どこまでの範囲が見られるかというのは、電波を出して、次に電波を出すまでの間に戻ってこなければいけませんので、この真ん中の時間のところがターゲットの距離ということなんです。

 それで、その何秒間ごとにパルスを出すかというのによって見られる距離が決まってくるのですけれども、実はドップラー速度を測る関係上、できるだけたくさんパルスを出したいんです。その妥協の産物として、マルチパラメータレーダも周波数を決めて、見られる範囲を決めています。基本的には60キロ程度を見れればいいという設定になっています。

 それで、いまちょっと前まで、できるだけ三次元の構造を見たい、上のほうの情報もほしいと言いました。ふつうのレーダーの操作は、低いところでアンテナを一回転して、このレーダーから電波が出ている、ここから返ってくる、ここから返ってくる、ここから返ってくるというのを一周するわけです。

 例えばこの辺に雨があったとすると、平面に落としてみますとこの辺に雨が出ますので、実はこういうところにあれば、ここにずっと雨があればこういうところに出てくる。それをくるくると回すと雨域が出るというような形になる。で、上空を見るためには、このアンテナの仰角を上げて、また水平回転します。

 これを気象学のほうとしてはできるだけたくさんほしいわけですけれども、低い仰角のところは1分間おきにほしいということになると、上のほうはどこまで上げるかとか、何度ごとに上げるかというのが工夫のしどころということです。いまはテスト的にある仰角設定にしています。

 研究用には、実はアンテナを縦に振って鉛直断面を見ることがあります。縦に振ると、レーダーがあって、これは距離方向、高さ方向ですね。それで、雨域がこういうところにあると、こんなふうに雨域が出ますよというふうになっています。

 研究用にはこういうことをしますけれども、通常は水平回転をして、雨域仰角を上げて、また回してという、ですから実際にはすり鉢状のところのデータがとれるわけです。それをある高さのデータに落とし込んでデータを示したということになります。

 先ほどビーム幅ということを言いましたが、実は詳しくは言いませんけれども、レーダーから、この長さで電力をあらわすと、ある方向、レーダーの中心軸方向にもちろん電力が強いんですけれども、この電力のこの幅がこのピークのところに対して3dB落ちたところ、電力で2分の1のところの幅で、ビーム幅何度というふうに見るわけです。

 その詳しいことはちょっと調べていただくとして、こういう対数をとっていますので、「それって何」と説明してあります。

 何が測れるかというと、例えば、これは宮古島へ行ったときに、名古屋大学の古いドップラーレーダで見て、こういうところは強い雨ですね、台風の目の雨域です。それに対して、このドップラー速度、この赤系統のところが近づく風で、遠ざかる風というのがここに出ていますが、実はこういうふうに渦になるのがわかるのです。ここが風速60m/sで近づいて、こちらが遠ざかる風60 m/sです。そういうようなことがわかるわけです。だから、通常レーダーで雨域がわかって、ドップラー速度を測るとその風がわかるというようなことがあります。

 ふつうは、その反射因子というのを測って、10×(反射因子の対数)ですね、これをやって、その値でdBZという値に直して、それが経験式で降水強度がどれくらいかというのを換算しているわけです。

 そういうことをどういうふうになっているかと詳しく資料で示していますが、ここはちょっと省略したいと思います。

 その辺のことをどうやっているかというのは、これはいろいろなところで、教科書を読まれたりするときの参考にしていただければと思います。

 それで、このビームがどうなっているかというのは、これでわかるわけです。実際には受信電力からここの部分ですね、Zと言われるところを測っているわけです。反射因子を測っています。

 その因子というのは、実は雨滴一つ一つの直径の6乗に比例する。レーダービームで見ているサンプリングボリュームの中の雨滴一つ一つからの反射強度の合計した強さの電波が返ってくるということになっています。その詳しいことは置いておくんですけれども、いずれにしてもその一つ一つの雨滴から電波が戻ってくるのを合計して見ているということです。その一つ一つの雨滴から返ってくる電波が、水平偏波と垂直偏波で戻ってくる強さが違うというのがマルチパラメータレーダのみそになるわけです。

 ここもちょっと飛ばしましょう。

 雨滴の直径の6乗に比例した部分、これが効いてくるんだということです。

 最終的には、受信電力から距離がわかって、定数がわかるのでこの反射因子というのがわかって、その反射因子の常用対数をとって10倍したものをレーダー反射強度として測るということで、このZというのは、実は1立方mm当たり、雨滴の直径の6乗という値です。

 ですけれども、ふつうはレーダーで測れるのはこれで、この値を出して、その対数をとって反射強度としている。そのときのここの部分がわかれば、経験式で降水強度を出すということにしています。その話は後でします。

 このドップラー速度の話は省略しましょう。

 スペクトルも省略します。

 それで、我々の持っているレーダーは直径2mのアンテナで、全体で2トンのレーダーを2つ、金レーダー、銀レーダーと言っています。

 従来のレーダーですと、レーダー反射強度とドップラー速度とレーダー反射因子差が測れたのが、今度は偏波間位相差や偏波間位相差変化率も測れるようになりました。

 それで、我々としては空間的に降水粒子の判別をして、降水強度の定量的な観測をしようとするものです。将来的には、地上の雨量計がなくても、このレーダーで見たところにはどういう降水強度なのかということがきちんと出せるようにしようと考えております。

 実は去年、安城出張所に置かせていただきました。これでディスドロメーター、地上に置く雨滴粒度計ですが、それを中部地整さんに置かせていただいて、マルチパラメータレーダデータと比較解析しています。そのデータはまた、いまの国交省のレーダーシステムのソフトウエアの開発に協力するように使わせてもらいたいと思います。

 レーダー全体をまとめますと、レーダーのアンテナから電波を出して、雨粒にぶつかって戻ってきた電波を見て、出した電波は振幅が大きいんですけれども、戻ってきた電波は振幅が小さくなるけれども、この振幅を見て、距離を考えて、降水強度を出すということをします。

 これも、戻ってきた信号の位相を測る、ドップラーシフトを測って速度を出します。マルチパラメータレーダでは、出す電波を水平偏波と垂直偏波を同時に出して、水平偏波で戻ってきたものと、垂直偏波で戻ってきたものとの比をとります。その比の値は、大きな雨粒になるとつぶれていくので、つぶれたらその比は大きくなるという原理を使います。

 これはNHKの名古屋で番組をつくった時のものですけれども、高速ハイビジョンカメラで雨滴の落下する形を見たものです。非常に大きくなると、形を変えながら速く落ちます。もう壊れていく寸前の形が出ていますね。5mm程度だとまだほぼ球形ですが、もっと大きくなるとずっとつぶれるという形が見えるので、大きい粒ほど平たくなるんだというのは間違いなく見てもらえると思います。

 それを使うと、水平偏波の反射因子と垂直偏波の反射因子の比をとって、対数をとったのがレーダー反射因子差と言われるものです。

 その値は、例えば2.7mmだと1.5dB、それから5.3mmくらいになるともう3.6dBというような値になるということです。これは二重偏波レーダーでもとれたんですけれども、マルチパラメータレーダではこういうデータがとれます。
 
こういうふうに概念的には測っています。

 それに対して、もう一つ別のパラメータも測れるわけです。これは相関係数、水平偏波と垂直偏波の反射因子の相関をとる、そういうことをします。反射強度とZDR、レーダー反射因子差。そうすると、反射強度が大きくなっていくには、小粒の雨滴がたくさんあるか、大粒の雨滴の数が増えているかということですね。そのときに、反射強度が大きいときも大粒が非常に大きいと、ZDRという値、レーダー反射因子差は大きくなるし、たくさん雨滴があって反射強度は大きいときでも、小粒だけだとこの値は非常に小さいということになるので、マルチパラメータレーダを使うと、このパラメータで大粒の雨滴が多いか、小粒の雨滴が多いかということがわかる。

 ただし、大粒と小粒が混ざっていたりすると、この相関係数というのは小さくなります。全部大きさがそろっていると、その相関係数は1になるというような原理があります。それから、雪が溶けて形がいびつなのが混ざっていると、相関係数は悪くなるということがあります。そういうパラメータも使います。

 そういうのを使って、雨なのか、雪なのか、融けているのかということを見ることができます。その情報はまだ国交省のほうでは使われていないんですけれども、将来的にはそれも入れて、降水強度の予測をしたいと思います。

 そういうのを実はアンテナを回転させながら、地上から高いところや、低いところにどういう粒子があるかということを見ようとしているわけです。

 そういうのを実際に、具体的にはどうなっているかというのをお見せしますと、これはちょっと前なんですけれども、途中にプリントでも反射因子がhhだったり、hだったりしています。このhhというのは水平偏波、horizontal、の頭文字のhですね。水平偏波を出して水平偏波で戻ってきたものを見ているという意味でhhと書いてあります。なぜhhと書くかというと、水平偏波を出して垂直偏波で戻ってきたのを見るということもあるので、そういう場合にはhvと書くんですけれども、そういうことがあるのでhhと書きます。あるいは垂直偏波で出して垂直偏波で戻ってくる反射因子をZvvと書くんですね。だから、実際にはZvhとかというのも測定することができるのですが、ふつうはしません。

 なので、Zhhの場合はZhと書くし、ZvvはZvと書かれているので、そこは混乱するかもしれませんけれども、そういうものだと思って見ていただきたいと思います。

 そうすると、反射強度で見ると、ここの赤いのが強い反射強度、強い雨が降っているところです。

 そういうときにレーダ反射因子差、ZDRで見るとこういうところが強くなっている。だから、これは雨のところを見ていますので、低い仰角、地表面に近いところを見ている雨で、それでこれが大きいということは、こういうつぶれた粒子なんだということがわかります。

 マルチパラメータレーダの非常に大事なところは、偏波間位相差です。これは何かというと、空間を見ていて、電波を出して、ここの雨滴のところに当たって反射してくるときに、戻ってきた電波を見ると位相がずれてきます。真空中を伝わると、その電波の位相はきちっと同じ位相を保ちます。この距離が例えば鏡とかがあってそこから完全に反射してくると、この時間に返ってくるのはこの位相というのはわかるのですけれども、雨とかがあって媒質があると、真空でなくなると、だんだん位相が遅れてきます。

 水平偏波を出して水平偏波で戻ってきた遅れの位相、これは360度であらわすので、位相が何度遅れてきたかという値ですけれども、それが水平偏波と垂直偏波で違ってきます。

 先ほどレーダ反射因子差のところで説明したように、大粒の雨になるとつぶれる。つぶれると、水平偏波の反射強度は大きくなりますと言いました。ということは、電波にとってみれば、同じ雨滴でも水平偏波は大きい雨滴があるとみますから、そこの媒質としては密度が大きいものというふうに判断するわけです。垂直偏波は小さい雨滴というふうにみますから、そうするとこの位相のずれ、遅れというのは、水平偏波のほうが垂直偏波よりも大きくなるということです。ですから、水平偏波の位相の遅れと垂直偏波の位相の遅れの差をとると、これは正になります。

 強い雨があればあるほど、位相のずれは大きくなる。それは、レーダーから見て各拠点で測っていって、それぞれ「ここでは何度ずれている」、「ここでは何度ずれている」というふうになるわけです。

 このちらちらしているところはノイズですけれども、こういう色がついているところで、例えばこの方向で見ていただくと、この辺、水色から緑になって赤になるということは、マイナスというのは減る方向になっていたのが、−60から−50、−40となっていますから、だんだん増えているということなんですけれども、この赤くなった後ある程度一定ということは、強い雨はない。だから、この辺のところは、急激に位相差が出ているということは、強い雨になるということです。

 それは、実はこの偏波間位相差の変化率というのでわかります。いま各点で位相差が見えたわけですけれども、この2点間、ふつうは1キロの間隔で、ここでどれだけの位相差があって、ここでどれだけの位相差があるかというふうに見ます。ですから、1キロの間でどれだけ位相差の差があるかという、その変化を見ます。

 それが偏波間位相差変化率、ふつうKDPと言っている値ですけれども、それで見ると、ここにこの差が黄色で5度、オレンジで6度とかというふうになって、ここに非常に大きな偏波間位相差の変化がある。1キロ当たり5度とか6度とかずれるところがある。

 ということは、ここが強い雨だということです。レーダーの特徴として、反射強度、これは絶対値測定なので、減衰があってどんどん振幅が小さくなっていくと、値も正確に測るのが難しくなるのですが、位相は差をとるだけなので、反射強度が弱くなってきても、減衰があっても、位相の遅れとか位相情報は正確に測れるということがあります。

 それで、この値を使うと、どこに強い雨が降っているかというのは減衰の影響を受けない。実は減衰の影響を受けているので、水平偏波と垂直偏波の減衰の差ということが位相のずれに関係しているのですけれども、その位相情報というのは正確に測れる。なので、この値がここに大きいというのは非常に正確なのです。

 それで、いま反射強度、いまの情報を拡大して、この部分だけ切り出してきたものですが、レーダーがこっちにあって、こういうふうにレーダーから見たときに、反射強度の強いところは、例えば赤いところの縁を黒のコンターで描いてあります。それをいま言った定義、偏波間位相差変化率、1km当たり何度ずれているかという値で書きますと、先ほど示した強い雨、大きい値は、ここにあります。

 この黒い線、ピンクの線というのは反射強度のコンター図です。重ねていきました。反射強度の強いのはここなんですけれども、この値の大きいのはここです。先ほどのZDR、レーダ反射因子差というのをこの色で書いていますから、2dBとか、つぶれた粒子というのは、この赤いところにあるということを意味しているんですけれども、この反射強度の強いところのレーダーに近いほうに大きな値があって、後ろ側はZDRという値でみると小さくなります。

 これは、水平偏波のほうが減衰が大きいので、強いエコーの後ろ側というのは、今度は逆にZDRが負になってしまうという問題があります。

 つぶれた粒子はここにあるというのはわかりますが、後ろ側の情報はもう減衰でわからなくなります。この問題のために、二重偏波レーダだけでは降水強度をちゃんと測れないということで、早い時期に二重偏波レーダができていましたけれども、降水強度の正確な測定にはなかなか使えないということになったわけです。

 ところが、このKDPという値は減衰があると測定上非常に有利だし、それから正しく測れるということで、実は反射強度で、ここに大きく出ているけれども、減衰があると本当に強い雨がここで降っているというのが正確にわかるようになったということです。それで、このKDPという値が非常に大事です。

 実はそういうことをやるときには、ΦDPという偏波間位相差をつかいます。本当はもともとこういう図だったんですけれども、こういうところのノイズを落としていくということをします。それを使うと、このKDPという値もこんなふうにかなりきれいになった。

 ですから、先ほどお見せした最初に紹介されたものは、ノイズを落として、KDPの値を使って反射強度を補正して、それで3つのレーダーを合成するときに、つながりがよくなるようにいろいろな工夫をしてスムーズな図を出しています。背景では、もう既にこういうノイズを落として補正をするということがなされているということなんです。

 これは、反射強度もノイズを落としてKDPを使って補正すると、もともとはこんなふうに出るのを、こういうふうにちゃんと強い降水域というのが出せるということです。この処理をされたのがいま使われていると思ってください。

 これもZDRですね。大粒の雨というのはここにあるよというのは、最終的にはちゃんと補正すれば出せるということです。

 いままでは、反射因子Zをレーダーで測って、降水強度Rを経験式で出していました。それは雨の降り方によってこの係数が変わるので非常に困っていたわけですが、いまはKDPという値を使って降水強度を推定しようというふうにしています。この係数というのは、結構KDPとの関係が非常によくて、いま散布図をつくって検討しているわけですけれども、かなりいいということがわかっています。

 ただし、このKDPの値がある程度大きくならないと降水強度の推定に使えませんので、弱い雨のときにはやはりこちらのZ−R関係を使わなければいけません。どの辺で切りかえるかというのがいま問題になっています。

 それから、KDPをどうやって算出するかというのはもうちょっと工夫が必要です。ノイズ除去法とかも考えなければいけない、検証しなければいけないというのが今後の課題として残っています。

 それで、実はこのΦDPとKDPと、それから反射強度ですけれども、位相としては、こっちが大きな値にずっとなってほしいんですけれども、これはちょっと仰角を上げて、反射強度で見たらブラインドバンドがあって、強いところがここにあって、雪のところとかでΦDPが減少するということがあるんですね。そうすると、このKDPの値がマイナスになって減っていくところが出てくる。だけれども、反射強度としてはちゃんと大きな値を持っているので、こういう問題をどうするかというのが今後の課題として残っています。

 地上高度の低いところを見て、雨だけだと余り大きな問題がないんですけれども、季節によって、みぞれが混ざってくるというふうになると、こういう問題が出てきますので、今後我々としても注目していかなければなりません。

 こういう問題がありますけれども、その偏波レーダの性能を理解すると、きちっと降水強度を測れます。そして、そのいろいろなパラメータを使うと、積乱雲の中のどこにどういう粒子があるか、それがどの程度の数があるかと、そういう粒径分布がわかります。

 それで、もう時間がなくなってきましたので、後に用意していたところはほとんど飛ばしまして、8月末豪雨のとき、「その粒子がこんなものがあった」というのがわかりましたので紹介します。そして、数値実験したら合いましたというのをさっとお見せします。

 これは8月末豪雨の状況なんですけれども、一宮で1時間に100ミリを超えるような雨があった。これは地上のアメダスを使って一宮で強い雨が降ったということですね。名古屋のここにレーダーがあって、ここの鉛直断面をとりました。

 気象庁のレーダーでいくとこういう線状になっていて、こういうところを見たんです。

 平面図で反射強度の強いところの断面をとったというわけです。

 そうすると、反射強度が高さ方向で10キロくらいなんですけれども、ここにドップラー速度で見ると、レーダーから北西側にはい上がっていく風が、オレンジのところは遠ざかる風で、北側から冷たい空気が押し出してきたというのがわかりました。

 そうすると、最終的にはこういう反射強度のときの強いエコーのあるところに、茶色っぽくなっているのは霰なんですけれども、濡れた霰がこういうところにあるということが識別できます。下のほうの紫のところは雨です。上の緑のところは雪なんですけれども、そういう雪粒子や霰というのがほとんど自動的に識別できるようになりました。

 これはちゃんと検証しなければいけませんが、少なくとも一宮のほうを見たときに、ちゃんと高いところに霰があって、その下で強い雨が降っているということが観測的にわかりました。

 名古屋大学の建物屋上にディスドロメーターを置いていまして、そこを降水システムが通ったときの雨滴粒径分布の中央値です。それで2.5ミリを超えるようなのがありましたので、一宮で降っていたのが名古屋の上を通過していきましたので、大粒の雨があったというのは、このディスドロメーターでもわかりました。

 もちろんその雨の降っているところではなかったので、大粒の雨があったというのは推定です。

 いま我々のところでは、坪木准教授が独自の高解像度の数値モデルをつくっています。雨、霰、雪とかを表現できるモデルですけれども、それを使って8月豪雨のときの再現をしました。

 レーダーと比較して、風も降水域も結構合うよという結果を次々と出しております。

 そうしますと、ここから北西側、一宮の方向を見た、これは数値モデルですけれども、ドップラー速度で見ると、レーダーから遠ざかる方向に風が吹いているというのが数値モデル、このレーダーの位置から北西側を見たときに、ここに矢印で書いているように、これは赤いところが雨水ですね、降水があるところです。そこに下からずっと風が入っていって上昇していて、内側から風が入ってくるというのは再現できている。いい対応をしている。

 そのときに、これは偏波レーダーで識別したものです。霰がここにある、雪がある、雨があるというのをコンター図で示しました。水色が霰なんですけれども、霰がちゃんとできています。それで、下に雲があって雨がある。レーダーでは雲は見えませんけれども、かなりいい対応になっているというのが見えます。

 そういうのを使うと、岡崎あるいは一宮で強い雨がありまして、そのときは、積乱雲が線状に並んでいて、こっちは北西側ですね。こっちは南東側ですけれども、南東側から水蒸気が下層へ入ってきて、北側から冷たい風が吹いてきてぶつかって、そのぶつかったところで温かい湿った空気が上昇して雨をつくって、上に霰もつくる。霰をつくって支え切れなくなったらどっと落ちる。この下に雨だけできて、雨でざっと降って強い雨になります。それだと大体1時間雨量30ミリくらいの雨しかできない。ところが、霰があって上からどんと落ちてくると結構強い雨になるわけです。

 一宮へきたときにこういうのができて、ざっと降ったのが一つ、二つあって、短時間に強い雨が降ったんですけれども、それでこっち側の北側の冷たい空気が地上付近にたまって押し出したんですね。それで、名古屋の上を通って岡崎方向に行って、岡崎付近でまた発達して、そのときは、発達する間は止まっていたんですけれども、また発達するとすっと移動するということになったと考えられます。

 ですから、瞬間的には、1時間とかでは強い雨が降りますけれども、それが何時間も続くということがなかった。岡崎はちょっと長く続いたということなんです。

 ですから、大粒の雨ができてざっと降るか、さらにその上に霰があって降るか、そういうのが同じところに停滞するかどうか、それからすっと動き出すかという、そこが大事です。

 そういうのを観測でとらえて、数値モデルに入れて、メカニズムも理解していますので、今度は数値モデルに観測データをどうかと入れ込んで、高速の計算をすると、30分先、1時間先くらいまではかなり精度よく予測ができるんじゃないかというのが我々の次のターゲットです。そういうのを国交省のデータを使って、モデルに入れて予測するというのを3年後くらいに提供できればいいかなと思っております。

 時間がなくなってきましたけれども、この間の7月15日のときの伽藍ですね。これは1日ですごく雨が降ったんですけれども、多治見ですと1時間に83ミリ降っています。これは観測史上1位のところだけを書いているんです。

 このあたり、八百津のところ、ここのところで問題になったのは、やはり1日で過去の値とすると、1位になったからというので注目されているんですけれども、総雨量で見るとすごい量ではないんです。でも、ここに集中していた。では、どんなふうに集中していたかというのは次です。

 このときは50ミリくらいになりますけれども、最初のこの3時間で40ミリ程度が3時間続いたというのが大きくて、それであとこれ50ミリを超えるのが1時間あります。このときにやはりここが問題なんですけれども、こういうふうに1時間雨量でここに強いところというのがあります。20時までですね。ここに集中している。

 中部地整さんに、先ほど紹介された反射強度の画像をいただいたので、再度見せているんですけれども、ここで注目すべきは、いま大体この辺に停滞していたように見えて、21時以降これがきたものです。これは全体を見るとこういうふうに大きく弧状の線、降水域があって、それがさっと動いたんですね。ですから、強度からいくとこの後からくるほうが強くて、すごい雨をもたらしていそうなんですけれども、実はさっと動いた。だから、1時間で50ミリに相当するようなのがあったかもしれないけれども、長続きしていないんです。移動が早いからです。

 ですけれども、もう一度戻ってきて、この時間になると一つ一つの積乱雲がこういうふうに入ってきます。全体としてはこういうふうに線状になるんですけれども、それに対してこういうふうに入っていって、一つ一つの積乱雲では、例えばずっと最初のほうに見せましたように、30分程度しか続かないんだけれども、そういうのが幾つか入っていって同じところに1時間では結構な雨を降らせます。そういうのが例えば2時間とか3時間同じところで、別の降水セルがくるんですけれども、そういうことが続くと大雨になります。

 あとのはレーダーエコーで見るとすごく強そうなんですけれども、さっと抜けていくときには、例えば1時間で50ミリということはあり得ますけれども、それが何時間も続くことはないので。ですから、最初見たときに大したことはなさそうでも、それが同じところに次々に来ると、30ミリとか40ミリとかの時間降雨量が3時間とか続くということはあり得るので、注意しなければいけないということです。

 これは気象庁のレーダーで、ここが最初なんですけれども、ちょうど21時以降の強いエコーがこういうふうに弧状になってすごいのがきたんですけれども、さっと動いていったんです。我々のレーダーはここにあって、ここを見ている。

 ここのところを見ているんですけれども、我々のレーダーでここの鉛直断面をつくりました。そうすると反射強度がこのようになっていて、濃い色、赤いところが強い雨です。

 実はレーダーがここにあって後ろが見えなくて、減衰のために見えなくなっているところがあるんですけれども、それでもこの背が14kmとか15kmと高くなっています。このタイミングでは非常に背が高く、ここでもう15 kmとかのエコーですから、ここも当然そうなんですね。

 ところが、ここでは見せませんでしたけれども、もっと前の時刻ですと、このでき始めのところのエコーを見ると、せいぜい10kmなんです。霰もできていますけれども、ほとんど下のほうの大粒の雨が雨量に寄与しています。

 こういうふうに背が高くなると、偏波間位相差変化率で見ると、ここよりも後ろ側に強い雨があるというのが見えていて、実はここじゃなくてここだよというのがわかるんですけれども、それでもすごい雨があるので、ここのところはもう偏波間位相差変化率で見ても見えなくなっています。

 それで、粒子判別すると、当然こっちは見えませんけれども、こういうところにちゃんと霰があって、ここにも霰がある。だから、この下では結構強い雨が降っています。ここも霰が降って溶けているから、この霰の下のところで強い降雨になっているということがよくわかります。

 ですけれども、これもさっと動いていったので、雨量としては結構な雨量ですけれども、それほどではないということですね。

 そういうふうにマルチパラメータレーダの画像を見る必要があります。やはりこういう上空に霰があるかどうかという情報も将来加味して予測ができるようになると、もっと使えるようになると思います。

 いま観測としては、我々は場の水蒸気を見るためにこういうのがあって、最近では雲レーダーとか、レーザーレーダも使って雨になる前から雲を見ようというのがありますけれども、いま使われるのはやはり通常の気象レーダーからドップラーレーダになって、マルチパラメータレーダになった、これを使うことなんです。

 数値モデル、高解像モデル、Cloud Resolving Storm Simulatorと言われるものですけれども、雲解像モデルが開発されてよくなりましたので、観測値とモデルを使って、高速の計算機を使えば、5分後、10分後、30分後、まあ1時間くらいまではかなりの精度で降雨予測ができるのではないかと思います。

 ただ、こういう数値モデルはそれではどの程度現業で使えるか、現場では100%予測の精度がないとそれは使えないということだと思いますけれども、参考には十分なると思います。だから通常ですと、これの画像を見ていれば、経験的に「停滞しているな」とか、「次々にくるな」とか、「さっと動くな」というのはわかると思いますので、予報現場の担当者には十分役に立ちます。ですから、最初お話があったように、見慣れていただければいまの状態でもかなり使えると思います。

 降雨監視・予測にこれを使いましょうというのが今日の主張ですけれども、1990年までに大体ドップラーレーダは開発されて、最近気象庁のドップラーレーダがほぼ完成したんですけれども、ドップラーレーダについてはもう中国、韓国は完成していて、アメリカは当然なんですけれども、ヨーロッパもドップラーレーダ網が完成しています。タイとか台湾、インドネシア、バングラデシュとかでもドップラーレーダが入っていて、現業にも使われるようになりました。

 それで、2010年からは日本は世界に先駆けてマルチパラメータレーダを使われるようになる。ということは、この使い方がちゃんとできれば、「こういう大都市にそのシステムをこういうふうに使いますよ」というふうに指導もできるようになるのではないかと思います。マルチパラメータレーダは、雨滴を見て降水強度を推定するということが中心なので、本当は風も一緒に測って観測しようというのは、レーダーの使い方からいったらちょっと無理があります。

 それで、いま研究としては、小型フェーズドアレイのレーダーをつくって、それをたくさん展開して、ドップラー速度の分布はこちらで観測しようという考えがあります。そうすると、マルチパラメータレーダのほうは、ドップラー速度の位相は測りますけれども、ドップラーレーダとしての機能を重視しないで、雨をちゃんと測るほうに専念することができます。

 そういうふうにこれとこれをうまく組み合わせれば、大都市圏については、風と降水強度、それから積乱雲の内部構造というのが同時に測れる。非常にいいデータセットになると思います。

 こういうふうな組み合わせのシステムができれば、本当に降雨の監視、それから予測がよくなるんじゃないかなと思います。ということで、マルチパラメータレーダでかなり降水強度は見れるようになりました。監視には非常に使えますというふうに言えると思います。それから、予測の可能性は十分にあります。ただし、幾つかまだ解決しなければならない問題があるので、我々は研究として使わせていただきたいと思います。

 将来的には、同様のシステムを、例えば中部地区でやっているようなシステムを、台北、上海、バンコク、シンガポールとかに提供して、良いシステム作りに協力することができるとよいと思います。

 そういうデータが集まっていくと、我々気象屋として一番期待しているのは、豪雨が増えているとかという、そういう気候学的な問題を考えるときに、例えば10年とかデータを蓄積すると、どこの雨量計で豪雨が観測されたかではなくて、面的に見てどれくらいの雨域のところで降雨のセルが何個あって、その中でグリッドごとにどの程度の降水強度があって、どれくらい持続したかというようなデータを統計的に出せるのではないかと思います。そうすると、雨の降り方が変わっているのか、それとも観測がよくなったから豪雨が増えているのかというようなことの答えが出せるのではないかと思っています。

 そういう意味で、研究用にもXバンドマルチパラメータレーダというのは非常に役に立って、それで気候学の研究にも、世界的にも将来こうすべきだという提案ができるほどのレーダーになっていると思います。

 ということは、もちろん豪雨だけではなくて、ふつうの降雨でも監視して、予測するのに非常に有効なシステムが導入されたんだということです。そういうシステムがせっかく導入されましたので、それを上手に使って、日々の予測にも今から役立てていただいて、それで3年間たった後には、それがより良い予測の機能をつけたシステムになってくれるといいなと思っています。

 そういう意味で、私の教室ではないと思いますけれども、中部地整の方にモニターになっていただいて、いろいろなフィードバックをかけていただけるといいと思います。

 ということで、私の話を終わりたいと思います。どうもありがとうございました。

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