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第16回 河川情報センター講演会 講演記録
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第16回 河川情報センター講演会 講演記録

 水文情報を活用した既設ダムの治水機能向上

○開催日時 平成22年3月25日(木) 14:00〜15:30
○開催場所 ホテル札幌ガーデンパレス 4階(真珠の間)
○講  師 中津川 誠 氏
 室蘭工業大学大学院工学研究科くらし環境系領域 准教授
○講演内容
  ただ今ご紹介頂きました室蘭工業大学の中津川でございます。本日は年度末のご多忙な時期に多くの方にお集まり頂きまして誠にありがとうございました。顔ぶれを見ますと、大先輩もいらっしゃって、そのような中で話をさせて頂くのはおこがましいと言うか、わかりきった話なんかもあると思うのですけれども、今日的に色々な気候変動とか地球温暖化とか、そういう問題が今顕在化してきていると言われておりますので、改めて我々がやってきたことが、どういうふうにそういう問題に対応できるのかということを振り返りながら、もちろん今までやってきたことも含めて、少しお話をさせて頂きたいと思います。

 

 「水文情報を活用した既設ダムの治水機能向上」というテーマでお話させて頂きますが、その前に簡単に、これもわかりきった話なのかもしれないですけれど、私の経歴を紹介させて頂きます。1986年、昭和61年に大学を出まして、当時の土木試験所に入りました。開発土木研究所に途中で変わりましたけれども、11年間にわたり水文モデルとか洪水予測の研究をやって参りまして、1997年に石建の維持管理課長を2年間経験しました。研究をやって、実務をやって、半年間留学したりして、実質的には半年ぐらいしかやっていないのですけれども、札幌河川事務所の副所長をやった。それから、開発土木研究所に戻って5年間研究をまたやって、今度は2005年に豊平川ダム統管の事務所の所長、これはやったと言えるかどうかわかりませんが3カ月所長をやらせて頂きました。その後、中部地整の豊橋河川事務所の所長をやって、1年と9カ月、河川の計画・工事・管理をしました。実はここでダムの計画がありまして、実調ダムに関わりました。それも担当したということで、少しダムの計画論みたいな話も経験することができたということです。

 そして今度は2007年に千歳川河川事務所。これもやったと言えるかどうか、半年間所長をやって、そして2007年10月から今現職の室蘭工大准教授ということです。大学に来てからもう既に2年半経ったのですけれども、こういう研究と実務をやりながら、そして研究でどういうことをやって来たかと言うと、先程ご紹介があったように、洪水予測とか流出のモデルの関係ですとか、その辺を亡くなられた星先生にも色々教えてもらいながらやって参りました。こんなに長い間やってきて、本当に活かされているのかと、最近そういう自問自答をしているわけです。

 それで、自分なりに特に洪水予測の情報というのは、どういうふうに使われているのだろうと、実務の経験も踏まえて振り返ってみました。まず、河川管理者は当然洪水予測をやって、計算をやって、その結果が出てきて、それを理解するということなのですけれども、何に使っているかと言うと、河川管理施設の管理です。これは河川法に基づく施設の管理ということです。ところが、地方自治体とか地先レベルでは何に使われているかと言うより、使うべきなのかという話なのですけれども、水防活動とか、避難とか、そういうことに使いたいわけです。これは水防法とか災害対策基本法とかに則ってやるわけなのですけれども、本当は河川管理者もそういうことを適切にやるための情報としてきちんとそれを出すべきです。

 ところが、情報を提供するだけで完結してしまっているという問題があるのではないかなというように感じられます。法体系として分かれているということもありますけれども、問題としては、情報を流せば終わりで、その先をどうするのかみたいなことは河川管理者としては考えていないとは言えないまでも、ちょっと人ごとみたいな感じになっているのではないかなというようなことを、感じます。故に今ひとつ、この洪水予測情報というのは、もちろん色々な研究もされて情報も出されているのですけれども、目いっぱい使われているかと言うと、まだまだ見直しの余地があるのではないかなという気がします。

 では、そういうことを踏まえて、どういうふうに使われるべきなのかということを考えた時に、今日的な話で言うと、やっぱりハード対策だけでは対応できないケースというのが非常に増えてきていてその対応への重要性が増大していることがあります。異常な雨とか、そういうものも増えてきているという中で、やっぱり洪水予測技術を有効に使うということを考えていかなければならないのではないかというふうに思います。そのためには、予測の結果どういうことが起きるのかということを分析する力、そしてそれを的確に説明することが必要だと思います。さらにもう一歩踏み込んで、河川管理施設を管理するために予測を使うのですけれども、それを施設の機能向上みたいな話に活用することが考えられます。決められたルールで決められたことをやるというふうに今まではやってきたのですけれども、さらにもう一歩踏み込んで、そういうことが予測されるのであれば、事前の対応によって、もうちょっと機能を向上できないかということを考えることです。いわば付加価値を向上させるみたいなことです。

 また、もたらす結果に対する分析力というのは、例えば、雨が降ったらこれだけ流入しますということだけではなくて、それによって例えばダムから放流しどういう影響が出てくるのか?あるいは想定を超えるような大雨で氾濫した時にどういうことが起きるのか?みたいな話を、きちんと分析できることです。それはハザードマップみたいな形では作っているのですけれども、リアルタイムの洪水予測情報を使ってきちんと分析をして、そういうものをベースとして、河川管理者としてもきちんと判断をしていけるかです。単に河川管理施設の管理だけではなくて洪水予測情報というものを、単なるルーチンワークだけではなくて、考えていった方が良いのではないかというふうに思います。

 そういう予測をするために色々な研究が今までなされてきました。いわば水文学の研究ということでなされてきたのですけれども、そういうものは実務にどういうふうに活かされてきたのか。あるいは活かすべきなのかということも考えました。研究と実務の経験ということを踏まえて研究成果がどう活かされるかということに応えるポイントとしては、その予測の信頼性とか精度はどうなのかということに対してやっぱり応えるべきかと思います。それからあと、人為的な操作、ダムが放流した時に下流の河川でどういう影響が出るかということがきちんと予測できるのかどうかということです。さらに踏み込んで、後で話しますけれども、既存施設の機能向上ということでダムの事前放流をやった時に、予測情報を使って、事前放流が本当にできるのかどうか? どのぐらい水を出せばどれだけの洪水に対応出来るのかみたいな話というような用途に対する予測というのができるのかどうかです。

 研究成果というのは、こういうものに対応出来るようなものが出ているのかどうかということを自分で考えてみて、今言えるのは、水文観測については、河川情報センターさんも一生懸命情報の整備はやられていますけれども、つまり、情報伝達とか、あるいはシミュレーション計算ですとか、こういう技術は明らかに10年前、20年前よりは今が断然向上しているのは間違いありません。しかしながら研究者は何をやっているかと言うと、実務的な目的よりもモデルの開発とかの手段を重視しているような姿勢というのは、論文を書かなければ駄目だということもあって、否めないと思います。

 それで、例えばモデルの話をしますと、モデル自体はものすごく精緻なモデルが提案されていますが、ただし、これは一般に使えるようなものになっているか、ユーザーフレンドリーになっているかどうかということになると、甚だ疑問なのではないかなと思います。一方、実務側の方は技術とか手段よりは目的重視です。こういう乖離が実務側と研究側ではあると思います。したがって、実務側は予測情報は予報の判断根拠でありさえすれば、本当にシンプルなモデル、いわば水位相関みたいなシンプルなモデルでも良いということになります。ただし、それはある地点のポイントでは過去のデータを使って予測できるかもしれないけれど、河川全体での予測ができるかということになると、それは充分かどうかという話になってくるわけです。これだけ色々な情報が充実してきたにも関わらず、そういう旧態依然とした予測しかできないということで、ここの歩み寄りがまだまだと言うか、足りないのではないかなという問題意識は、私が実務と研究を20数年やってきて感じたところです。

 では、お前に何ができるのだという話になるわけです。これはモデルの話ですけれども、昔は計算能力の問題もあり流域を一括して雨が降ったらどういう流出があるかというランピングモデルが主流だったのですけれども、今は分布型で、雨の分布を考慮して流出計算ができ、予測もできるみたいなものが開発されています。ただし、なかなかこれが実務の洪水予測とかには使われない、投入はされていないという現状です。私が、そういう問題意識の下に最近考えているものは何かということをこれから話していきたいと思います。

 今日の話の流れとしては、問題の背景として治水の課題、ちょっと大きな話ですけれども、昨今の治水を取り巻く課題と、それからダムについて話したい。その中で、ダムというのは、今政権も変わって非常に色々なところで話題に出てきます。実際はどうなのか?現場の経験を踏まえて、どういう状況なのか?ということを私の経験で話させて頂きたいなと思います。そして、そういう諸々のことを踏まえて、もちろんアウトプットはこういう問題について、背景が大きい割にかなり限定された話になってしまうのですけれども、ダムの事前放流というのをこれから真剣に考えて行く必要があるのではないかなと思いまして、それで今日は少しお話させて頂きたいと思います。

 これはよく見ます。国交省でも色々な資料が出ていますけれども、近年の大雨の動向ということで、これは1地点当たりの年間の日数で表していますが、日降水量100o以上が降る日数を1地点当たりの数字で示しています。これは全国の気象庁アメダスの51地点で平均した値ということなので、1地点当たりにすると1回とかですね。1ケ所で100o以上の雨が降るというのが、ここは非常に微妙ですけれども、徐々に増えてきているようにみえます。気象庁のデータもそうなっています。それから、200o以上の日数でもそうなっていますということなので、これは過去100年ぐらいの動向を見てもこういう傾向が現れていますよというような話です。

 それから、北海道ですね。これは私の方で整理したのですけれども、アメダス206地点で3日雨量100o以上の雨が降る回数がどうなってきているかということです。アメダスなのであまり長いデータがなくて、過去30年分ぐらいのデータです。これは1985・6の洪水の時ですけれども、傾向的には徐々に増えてきているので、なんとか考えないと駄目ですねという話になりがちなのですが、私の言いたいのはそういうことではなくて、これは30年で切り出した傾向です。その前はどうなっていたのかというのは、これはデータがないのでわからないので、30年だけを切り出して、これからどんどん増えていくというような言い方というのはちょっと無責任な言い方になってしまうわけですね。よって、このデータの解釈というのは、もう少し長期的なものを踏まえて考えるべきだというふうに思います。

 確実に言えるのは、ずっと同じレベルで降っていたような雨が、突然ある年ものすごく降るということが起きるということです。これは愛知県の岡崎というところの例です。私も豊橋河川事務所にいた時に岡崎と関わりがあったのですけれども、この左上のグラフが1976年からの年最大日雨量ですけれども、だいたい100oから150oぐらいでしたが、一昨年突然250oという大雨が降りました。それから、時間雨量もだいたい多くても40oとか50oぐらいだったものが、いきなり一昨年の大雨で140oとちょっと経験したこともないような雨が降りましたということです。

 それから北海道で言うと苫小牧の例です。これは1950年に日雨量が400oを超えるような雨が降った例です。普段は100oくらいのものです。それから、時間雨量も120oでした。こういうこと、いわゆる極端現象というやつが起きますよということです。トレンドが増えているかというような話とか、それからあと周期的に20年周期とか30年周期で多い時期と少ない時期を繰り返すとか、そういう問題とは別に、ランダムにこういう現象が起きて、突然こういう極端現象みたいなものが起きるということです。多くなるか少なくなるかということを心配するのではなくて、こういうことを考えるべきだということです。

 これは何も別に今に始まった話ではなくて、ずっと我々は考えてきたのです。河川技術者は、確率処理をやったり、色々考えてはきたということです。ただ、これは異常値だというふうに言っても、これからは始まりませんよということです。異常値だから、これは対応できないのだという言い訳が、これから通用しないのではないかなということです。対応するというのは、計画的論には対応できなくても、何かしなければならないということです。そういう意味で対応できないということは言えないのではないかということです。

 そのような中でダムは下流の洪水を防ぐために、国土の安全・安心を守るために、非常に役立ってきたといえるわけです。安全・安心を確保する社会資本ストックとして明らかに貢献してきたと考えられるのですが、昨今の色々な議論を見ていますと、何が問題かと言うと、まずコスト、お金が掛かるという話がありますね。それから、環境への影響とかもあります。それから、何よりも完成まで非常に時間が掛かるということです。堤体を造るのは何年かでできるのですけれども、アセスだとか、色々な手続きに時間が掛かります。ワシ・タカの調査だけで3年掛かるとか、何千万もお金が掛かるとか、とにかくそういう問題でものすごく長く時間が掛かる。その間、時間が掛かることで水没する地域の人が待たされるわけです。生活再建をどうするのだという話が絡んでくると、善し悪しの判断が難しくなってくるわけです。

 それともう一つ大きな問題としては、ダムに対する正しい認識がなされているかという問題があると思います。説明の問題です。説明は色々なところでしているのですけれども、なかなかそれが届いていないと思われるわけです。どうも色々な人の話を聞くと、ダムがあれば洪水は永遠に起こらないというふうに考えている人が大多数と言うような気がします。ダムはあくまでも、洪水が起きればその洪水を貯留して下流の被害を防ぐのは間違いないのですが、それも限界があるということもどこかできちんと説明しないと駄目だと思うわけですがそういうふうには思われていないと言うか、国交省の人間が考えているのと地域の住民が考えている意識に相当ギャップがあるのではないかなと思います。

 結果として、最近の大雨とかもあって、ダムの「ただし書き操作」というのを行うケースがあるのですけれども、既存のダムも役に立たないのではないか?返って悪さをしているのではないか?というような、そういう不信感が生まれてきているというのも問題ではないかと思うわけです。この辺で、正しい認識と言うか、説明が足りない部分があるのかなというふうに思います。

 それから、ダムでなくて他の手段で出来るのではないか?たとえば堤防整理をすれば良いのではないかというような話等もよく出てきます。これは分析とか検証の問題ですけれども、これも正しく伝わっていないと感じます。ダムがなくても堤防整備で充分だという議論が出てくるのは、治水の原則は水位を下げることで水位を高いままで何十kmもの安全度を確保するというのは非常に難しいことなんかも、なかなか理解してもらっていないのではないかと思います。その内に、そんなことでできるのだったらアメリカのようにダムを撤去した方が良いのではないかというような話なんかも出てくると思います。アメリカの事例はよく引き合いに出されるのですけれども、私が見るに、あれは維持管理ができない、すなわち、お金を出してももうその効果というのは期待できないので、しかたがないので撤去するという話が多いと思うのですけれども、治水の状況や国土の条件とか、そういうものは全然違うという認識のもとに考えていく必要があります。

 そういうことが色々問題なのですけれども、これから考えるべきことは、ルールで決められたことを固定的にやるだけではなくて、なにか機能向上を図ることはできないかということを考えて、気候変動というような問題にも、このダムという社会資本ストックは非常に有効に効くのだ、やっぱり造っておいて良かったのだというふうに思わせるようなことを、考えるべきなのではないかなと思うわけです。現行計画以上に治水とか利水の安全度を向上できないかとか、環境面での付加価値をつけて、たとえば環境用水をダムで貯留して流して、環境に悪い悪いと言われるのと逆に水を流すことによって下流の水を確保するようなことにも使われるのではないかなと思います。そういうことをついでみたいな話ではなくて、真剣に考えるべきで、つくる技術から使う技術というのを研究あるいは開発していかなければならないのではないかなと思うわけです。

 例えばなしで言うと、よく一般の人に誤解されている話というのは、100年確率の洪水流量が整備計画レベルの30年発生しない確率はいくらかと聞くと、100年確率なので、100年に1回ぐらい起きるというものすごく小さい確率だというふうに、思うわけです。しかし、30年間発生しない確率というのを出すと、これは1マイナス1/Tは超過確率、つまり非超過確率のべき乗ですので、1マイナス1/100の30乗となり、これは0.74です。非超過確率、つまり起きない確率が0.74なので、逆に言うと発生確率は26%。よって30年で1/100の洪水が起きる可能性は十分あるというのが統計的に言えるのです。それがどうもあまり理解されていない。1/100はもう、生きている間にそんなことは起きないだろうというような感覚です。

 それから、堤防は何から造られているかですが、これは当たり前に土から造られていると我々は答えるわけです。あるところで聞いたのですけれども、小学生にこういう質問をすると、コンクリートで造っているというふうに答えるというのですね。なので、こういう認識は小学生だから別に良いよということではなくて、一般の人もそう思っている人もいるかもしれません。もしかしてコンクリートの護岸貼っているからコンクリートで造っていると思っているのでしょうけれども、中は土ですね。そうでなくて、コンクリートで造っているので、これはダムと同じなので絶対壊れないだろうというふうに思っているかもしれません。もしかしたら一般の人にもそういうことが全然認識されていないということなので、もしかしたら、それが根っこになって、別にダムでなくて堤防でも良いのではないみたいな話が出てきているのかもしれません。

 それから、その堤防の話なのですけれども、これは非常にラフな確率の計算例です。雨の確率は、統計的にキチンとやっているのですけれども、これは私が勝手に考えて、学生に演習問題で考えさせた問題です。100mあたり1/1000、1000年に1回決壊するという堤防が両岸の延長100kmにわたって敷設されている場合、堤防が決壊しない確率はいくらでしょうかという問題です。これはかなり適当な設定なのですけれども、考えて見ると、1/1000、1000年に1回なので、ポイントとしてはものすごい安全度が高いわけです。ところが堤防が100kmある場合、どういう確率になるかと言うと、決壊しない確率は約90%となります。

 ところが、これは裏を返すと1/10で決壊する可能性があるということになるわけです。ダムというのは1点で抑えるのですけれども、堤防は沿川に何10kmも連なって、その沿線で万全を尽くさなければ駄目だという話になると、確率としては非常に心もとないということもあり得るわけです。このリスクの評価というのはきちんとやらなければ駄目だと思うのですけれども、これは一つの研究課題だと思います。

 ということで、こういうことをきちんと理解してもらうということですが、ここでダムの機能について、これもわかりきった話ですがおさらいしておきます。教科書的には三つぐらいあって、一定量放流方式とか、一定率一定量放流方式とか、自然調節方式とか、あります。何を言わんとしているかと言うと、流入してきて全く下流に水を流さないということはあり得ないということですね。当たり前のことなのですけれども。一般の人からはそうではなくて、それはすべてダムで止める、あるいはそれは流すけれど、被害のない水を常に流し続けるということをダムは完璧にできるというふうに思われている。ところがそうではなくて、実際のダムの運用というのは、洪水がくれば、これはピークカットで全量フラット放流する例ですけれども、ある程度流量が入ってくると、一定率で徐々に放流量を増やしていって定量操作に入る一定率一定量放流方式もあります。現実にはそのような放流をしなければダムというのは、溢れてしまいますので、当たり前のことなのですけれども、こういうことも理解してもらわなければなりません。


 それから、運用方式にはオールサーチャージ方式と制限水位方式があります。オールサーチャージは、これはいつでも一定の常時満水位が設定されています。ところが制限水位方式は夏季出水の時は制限水位を設定しているのですけれども、洪水がないであろう時期は常時満水位を上げて利水を確保するという方式です。北海道でこの方式が今後問題となるのではないかなという話を後でさせて頂きます。

 それから、よく混同する話に予備放流と事前放流は何が違うのかということです。私も何年か前までわからなかったのですけれども、予備放流というのは治水容量の内数であり、平常時は利水容量となっている水を前もって放流して、治水容量を確保することを予備放流と呼んで、この放流により確保する容量を予備放流容量と呼びますということで、これは治水容量に含まれるわけです。この予備放流は洪水対応のためには放流しても良いのですけれども、事前放流というのは利水の分をあらかじめ回復するであろうという見込みの下で放流するので、もし回復しなかったら大問題で補償しろという話になる。ここが大きな違いなのです。

 要するにダムの運用の仕方でもこの予備放流方式ということはもう既に導入されていて、豊平峡ダムでもやっています。いわば、こういう弾力的な水位の運用をやって、安全度は確保しているのですけれども、それだけでは対応できない問題が出てきている。よって、事前放流も今後考えた方が良いのではないかというのが今日の講演の趣旨です。

 それから、これはダムの洪水調節の模式図です。通常の洪水は治水容量に溜めこんで下流にはあまり流さないように放流をしようとする。これは当たり前のことなのです。ところが異常洪水の時はどうするかと言うと、これはダムから溢れてしまいますので、溢れないように放流しないと駄目だということになり、ダムの安全を第一に考えて放流しなければならない。これがいわゆる、「ただし書き操作」というやつなのですけれども、場合によっては流入イコール放流で放流することになります。

 ところが、これは何か勘違いをされてですね、流入してくる以上に放流しているのではないかと、そういう疑念を持たれているのですけれども、決してそんなことはありません。誤った操作をしない限り、そういうことはあり得ないし、洪水のときは流入以上の放流は絶対しませんが、一般の人に意外とわかってもらっていません。わかっていないということは、そういう説明をしていないのではないかと思いたくなります。

 では、その「ただし書き操作」なのですけれども、これはいったい何でしょうか。この「ただし書き操作」という言葉も、通常の操作の一部分みたいな、そういう勘違いをされているような気がするのですね。決してそうではなくて、この「ただし書き操作」というのは、ダムの操作規則に洪水調節の項があって、所長は次の各号に定める方法により洪水調節の操作を行わなければいけないということで、定率操作とか、定量操作のルールが書いてあるのですけれども、この下に「ただし、気象、水象その他の状況により特に必要があると認められるときは、この限りではない。」とあり、この「ただし」をもって「ただし書き操作」と言うわけです。

 この「ただし書き操作」については別に「ただし書き操作要領」があって、この操作規則とは全然別物と言うか、操作規則外の運用ということになるわけです。ダムの安全を第一に守るということで、異例の操作、特例的な操作ということになるのですけれども、それは一般の人には理解してもらっていない。操作の一部分でこういうことをやって、下流に被害を与えているのではないかみたいな感じがします。


 それで幾つか私の経験した事例を、特に「ただし書き操作」の事例を紹介しながら、どういう問題が起きているのか、起きてきたのかということを話したいと思いますけれども、三つほど事例を挙げさせて頂きます。

 事例1、これが私の印象に最も残っている事例なのですけれども、二風谷ダム2003年の8月です。総雨量で334oという雨が降りました。この赤で書いたのが流入量です。この青が放流量です。最大流入量が6,400トンです。それに対して、「ただし書き操作」をやったわけなのですけれども、それでもきちんとピークカットして、5,500トン放流しているということで、これは本当にいくら見せても理解してもらえないのですけれども、これはきちんと流入量より少ない量で放流して、そして洪水調節機能を発揮している。そして結果として1mぐらい水位を下げて、堤防から越流しそうになったのですけれども、それは踏みとどまりました。これは一目瞭然ですが同じような雨が降ったにも関わらず隣の厚別川流域ではもうドロドロの外水氾濫が起きて谷底いっぱいに水が流れて、畑や家が水に浸かって大変な状況になったのですけれども、沙流川では青々としています。ダムと堤防に守られて止まっていますということですが、こういうことを話しても、どうして理解してもらえないのかなというふうに思うのですけれども、これが現実です。

 ただ、やはり「ただし書き操作」というのは、先程言ったように特例的な措置で放流するということになっています。結果的には沙流川では外水氾濫は起きなかったのですけれども、やはりやらない方が良いということなので、それを踏まえまして二風谷ダムでは事前放流というのを、既にこれは運用を開始したということです。これは2005年7月7日に開発局の方で記者発表した資料の中に載っている絵なのですけれども、この青い線が放流量で、この赤い線が流入量です。この緑の線がちょっと見づらいですけれども貯水位です。洪水が起きるだろうという見込みで事前に放流して、水位を下げて、そしてちょっと見づらいのですけれども、この実線が平成15年の実績の放流量だったのですけれども、この事前放流をやることで、この最大放流量を減らすことができるということです。これはシミュレーションなのですけれども、そういう運用ルールを打ち出したということです。この事前放流をやる判断をどういうふうにするかというのは、色々課題があると思いますけれども、うまくできればこれは本当に有効だと思います。

 事例の二つ目としては、この矢作ダムです。これは私が豊橋河川事務所にいた時に管理していた愛知県の矢作川の上流にあるダムなのですけれど、アーチダムで、これは昭和46年ぐらいにできた豊平峡ダムとほとんど同じ時期にできました。形もアーチダムということで、高さも規模も似たようなものです。この矢作ダムで何が起きたかと言うと、2000年に東海豪雨というのがありましたが、名古屋で洪水が起き、それは大きなニュースで伝わったのですけれど、実は矢作川でも大きな洪水がありまして、一般には東海豪雨と言いますが、地元の人は東海恵南豪雨というふうに言います。恵南というのは、恵那市というのがこの北にあるのですけれども、恵那市の南に降った雨ということで、東海恵南豪雨という言い方をします。

 この時に矢作ダムで「ただし書き操作」をやっているのですね。これは「ただし書き操作」をやっている時の写真ですけれども、非常用洪水吐きから水を出して、そして下流で被害がありました。幼稚園があったのですけれども、それが流されました。人的被害は幸いにしてなかったのですが、人的被害が出たら多分裁判沙汰になっていたと思います。とはいえ、家屋とか幼稚園が流されたということで、この当時大問題になりました。私が2005年に河川事務所の所長になったのですけれども、このダムの問題では苦労しました。

 この下流に豊田市があります。豊田市でも堤防から水が溢れそうになって、ギリギリのところで溢れずにすみました。この写真で左岸側に造りかけの建物がありますけれども、これはトヨタスタジアムです。今はもう出来上がっています。右岸の方が豊田の市街地なのですけれども、こちらが上流で、トヨタスタジアムがこの辺にあります。右岸の方が市街地です。左岸の方に溢れたのですけれども、幸いにして右岸の方は溢れませんでした。豊田というのは余談ですけれども、昔から豊田という名前ではなくて、これはトヨタ自動車が来たので、豊田という名前になった。昔は違う地名です。「ころも」といって、手を挙げるの「挙」に「母」と書いて、「挙母」という地名でした。ここは水害常襲地帯で、歴史を聞くと川の側に人が住まないというような場所だったらしいです。ここに堤防を整備して人が住むようになった。そしてトヨタ自動車が来て豊田という名前になって、今色々とバッシングされていますけれども、いわば日本経済をリードする場所です。そこが氾濫しそうになったということです。

 このようなことを招いたのが、さきほどの矢作ダムの「ただし書き操作」と下流に明治頭首工というのがあるのですが、諸々の治水対策に原因があるのではないかということで問題になりました。見づらいのですけれども、ブルーが矢作ダムの流入量です。それに対して、赤が放流量です。「ただし書き操作」を途中からやったのですけれども、これを見てわかるとおり、流入は二波に分かれ、大量の流入が長時間にわたって続いています。この絵だけ見るとわかりませんけれども、実はこの東海豪雨が起きる前は、ほとんど雨が降っていない渇水だったのです。どちらかと言うと、気持ち的にはこの地域は洪水のことより、普段の関心は渇水の方が大きいのです。トヨタ自動車をはじめ色々な産業が発展しています。
 それとあとは農業です。明治用水といって日本のデンマークと言われる、そういうところに水を引くために水使いが高度化されていいます。それで雨が降らないと本当に直ぐ渇水になってしまうということで、この時はそういう年だったのです。したがって、当時の担当者はこれは恵みの雨だということで、それで渇水を解消しようというふうに思ったとしても不思議ではありません。ところが予想以上に雨が降ってしまい、流入量が大幅に増えて見込み以上に溜まってしまいました。その結果、下流の住民はそういうような気持ちが遅れ操作を招いたのではないか、対応が遅れたのではないか、もっと事前にそういうことを考えて放流していれば、こんな問題は起きなかったのではないかということなどを、未だに感じているわけです。もちろん当時のダム管理担当者は洪水調節にベストを尽くしたのは間違いありません。

 これは矢作ダムの容量配分図なのですけれども、治水容量は1,500万トンです。そして利水容量が5,000万、時期によって違いますけれども、夏季出水期には5,000万トンで非洪水期は6,500万を利水のため溜めるというような容量配分となっていて、利水のウエイトが非常に大きいことがわかります。普段はダムの所長の頭の中はかなりの部分を渇水のことが頭を占めています。

 被害軽減と言う意味でダムはないよりはあって良かったのは絶対間違いないのですが、このときの矢作ダムの操作についてはとにかく色々な意見だけでなく疑念とかが出てきて「ただし書き操作」をやるということはそういうことだということです。人的被害は幸いにしてなかったのですけれども、こういうことは極力なくしたいなというふうに思うわけです。

 それから、三つ目、今度は北海道の事例で豊平峡ダムについてです。図らずも同じ平成12年、2000年に起きた事例ということなのですけれども、豊平峡も矢作と同じアーチダムです。できたのも同じ頃の同じアーチダムでちょっと因縁を感じるのですけれども、また同じ年に同じような「ただし書き操作」をやったということです。

 この2000年の4月から5月にかけて何が起きたかと言うと、融雪期に大雨が降ったのです。4月の下旬に総雨量168o、それから5月の初旬に100oぐらい雪ではなくて、雨が降ったということで、後半のこの100o降った時に「ただし書き操作」をやりました。これは通常の雨だけではなくて、融雪の最盛期ですね。ただでさえ流入量の多い、雪解けの多い時期に、大雨が降ったということで「ただし書き操作」をやったということです。これはたまたま見に行って放流している風景を撮ったのですけれども、下流の定山渓温泉の施設では土のうで防いでいますけれども、お風呂に水が入ったりしました。このときは大きな被害とはならなかったのですが、こういうことはなるべくはなくしたいものです。

 どういうことかと言うと、5月とか4月は貯水位を、常時満水位をダムの満タンのレベルまで利水のためにキープしています。これは雪解け水をなるべく溜めこんで、その後、利水に使うということを考えて、操作上・運用上はそういうふうにしている時期です。そういう時期に大雨が降ったわけです。イメージ的に見ますと、洪水期はたっぷり治水容量がありますので、この容量を使って調節して、下流にはそんなに流さなくても良いのですけれども、言い方が非洪水期というのはちょっと適切かどうかわからないのですけれども、非洪水期には治水容量はほとんどないような状況です。一応、予備放流方式で、予備放流水位とサーチャージの間には治水容量があるのですけれども、ごくわずかで、この容量を使って洪水調節をやらざるを得ないということで、こういう時期に大雨が降るとお手上げになるような状況です。これは学生が自発的に行って写真を撮って来たのですけれども、夏季はこのぐらい下げて治水容量を稼いでいるのですけれども、非洪水期の11月には水位を上げている様子です。

 それでは、非洪水期に、どのぐらいの雨が降る可能性があるのかということで、確率雨量を出してみようかなと思いまして、その非洪水期の雨だけを抽出して、推定してみました。誤植があります。これは150年確率ではなくて100年確率ですね。非洪水期に限った100年確率雨量ですね。この時期の雨で処理すると、3日雨量で199o、つまり200oぐらいは降るという結果となりましたが、これはあくまでも統計処理上の結果ですがそれが出ました。では、ダムを造った時の計画雨量というのは何oかというと349oです。夏はもちろん雨が多いのでわかるのですけれども、非洪水期もバカにならないことがわかります。200oぐらいの雨が、もしかしたら100年確率で降るかもしれないということなので、本当にその備えができるかどうかという話です。

 以上、色々な事例を紹介しながら、浮き彫りになってきた問題なのですけれども、ひとつは想定外の量の大雨が降るということは今のところ言われています。超過洪水が起きる可能性です。それだけではなくて、特に北海道の場合、想定外の時期に大雨が降ることがありうるわけです。量としては夏水の時期よりは少ないのかもしれないのですけれど、融雪とダブルで起きる可能性があるわけで、今までは想定していなかった時に大雨が降る可能性もあるのではないかということも浮き彫りになってきた、あるいは浮き彫りと言うより、問題にしなければならないのではないかというところです。

 それでは、それに対して考えるべき方策としては、これは元国交省技監の清治さんが使われている言葉ですけれども、シームレスな治水対策というのがやっぱり必要と思います。このケースではもう対応できませんというような話、お手上げですよというような話ではなくて、そういう時にも何ができるのかを考えるということが必要なのではないかということです。それから、これも最近言われているのは、ハード対策だけではなくてソフト対策の重要性ですけれども、なおかつ、総合的あるいは重畳的な対策ということを考える必要があると考えます。重畳的という意味は後で話しますけれども、一つの方策でしのごうということではなくて、色々と手を変え品を変えみたいな、そういうことを考えて行く必要があるのではないかということです。

 そのために色々な方策が考えられるのですけれども、今回挙げたいのは、既存施設の機能向上、とくにダムの事前放流による機能アップについてです。ここで問題になるのが、実際に事前放流をやるためにどうするかと言うと、流入量をきちんと予測して見積もっておかないと駄目だということですが、それは的確に出来るのかどうかということが問題になります。そして、その予測した結果をどのようにダムの運用に活かしていくのかということを考えて行かないといけません。

 それから、万が一降ると言って事前放流したのが全然降らなかった時のことも考えておかないといけない。空振りした時の保障です。これは利水の問題ですが、治水の問題は確かに安全を守るという意味では最優先ということになるのでしょうけれど、利水の問題もそれで溜まらなかったら飲み水とか農業用水とかどうするのだという話も切実な問題です。したがって、その辺をきちんと考えないと、なかなか実施まではいかないと思います。

 特に北海道の場合は、さきほどの非洪水期は融雪と絡んで大雨が降るということもあるので、融雪もきちんと推定しておかなければならないということです。モデルの詳細は抜きにして、流域水・熱収支を考えて融雪も計算できるようにして、それに雨を降らせ、ダムの貯水池に流入する量がいくらかというようなモデルを作りましたが、これはできています。では、今度はそういうモデルで流入量を予測するのですけれども、降雨や融雪がどういうふうに起きるかということを予測しなければならないわけですがそれも検討してみました。

 問題は予測というのは、予測したらしっぱなしで、その情報というのはなかなか残っていないのが現実です。そういう情報を集めるのに苦労したのですけれども、何とか集めて、最近の2006年の事例で検討してみました。これが豊平峡ダムのハイドログラフです。2009年と書いてありますけれども2006年ですね。これは2006年の5月18日から6月15日にかけてのハイドログラフで、ここで雨が降って流入量が増えました。それに対して、ある時点で、その前の何時間前から予測すればこういう結果になりましたという結果が示されています。予測結果というのは幅があります。1時間前に予測した結果、2時間前に予測した結果、それぞれちょっと違っていますので、その幅です。その幅をオレンジ色で塗りつぶしているのですけれども、例えば12時間前に予測した結果で予測結果の幅を出すと、かなり幅が広がっていて精度が非常にラフであることがわかります。

 それに対して6時間ぐらいだとかなり信頼性が出ています。つまり予測情報としては6時間先ぐらいの情報というのは使えるのではないかなというぐらいのレベルまで来ています。なお、予測の情報ソースは気象庁の出す予測とか、色々なものがあるのですけれども、これは気象協会の予測結果です。2007年についても検証してみましたが、その結果からも6時間ぐらいの予測リードタイムだったら何とか使い物になるということがわかりました。

 このほか雨が降らない場合の融雪だけの予測だと、これは12時間前とか、そのぐらいでも使い物になる。これは赤が予測をしたもので、ブルーが実績ですけれども、融雪だけだとかなり長いリードタイム、12時間前、24時間前でもまずまず予測できるということです。雨のことも考えると一応目安としては6時間というところです。ただし6時間ですと、後で話しますけれど、6時間でどのぐらいの事前放流ができるかと言うと、そんなに放流できないのです。出来得ればもっと長いリードタイムが必要で、事前動作とか、色々な準備とか、手続きとか、そういうのもありますから、せめて12時間前とか、そのぐらいのリードタイムは稼ぎたいということなのですが、そうするとさきほど言ったように精度が悪いという壁に突き当たるわけです。

 ではどうするかと言うと、時系列でこういう予測をしていくと、1時間先には何o降ります、2時間先には何o降りますというのはなかなか難しいわけです。そこで、今後1時間の積算で何o降りますか、2時間で何o降りますか、12時間で何o降りますかと、積算値で予測して行ったらどうかなということを考えました。そうすると、ちょっとばらけてはいるのですけれども、時系列でやっていくよりはそこそこの結果が得られました。横軸が積算の予測に対しての実績です。縦軸が実績なので、45度の線に乗ればだいたい良いということなのですけれども、そこそこ相関が出てきたという結果です。これはちょっと使えるのではないかなと思いました。実測値と予測値の相関係数を見て行くと、時系列で予測した場合は、相関係数はリードタイムが4時間ぐらいであっという間に落ちちゃいます。それに対して積算値だとそんなに落ちない。相関係数で5時間ぐらいでも0.8ぐらい。それからもうちょっと予測リードタイムが長いGPVという気象庁の数値予報情報がありますけれども、これを使った予測というのは、相関係数はなぜか1回下がるのですけれども、16時間、24時間と、ずっと0.8ぐらいです。一応相関係数だけ見るとこういう結果になるので、時系列で時間毎に予測するよりは使えるのではないかなという結果です。

 そういうことで、予測フローとして降雨予測をやって、その結果を積算して、積算した値がダムに流入する水量として、それと空き容量を比較して、この流入してくる量が上回れば、その時に事前放流をやれば良いのではないかという判断ルールでやればどうかというのを考えました。実際の例でシミュレーションをやってみたのですけれど、2006年5月28日に雨が降った事例です。黒で流入量を書いてありますけれども、それに対して操作ルール通りに放流していった場合どうなるかがブルーで示されております。そうすると、これは「ただし書き操作」をやるケースになってしまいます。定率操作でやって定量で、ここで「ただし書き操作」を始めるというケースになるのです。実際は2006年5月は所長が機転を利かして事前に放流して「ただし書き操作」はやらなかったのですけれども、シミュレーションで操作ルールどおりにやると「ただし書き操作」をやるというケースでした。さきほどの積算雨量を使った判断ルールで事前放流をやると毎秒60トンの無害流量を放流すると「ただし書き操作」をやらなくて済むという結果です。

 ただ、ちょっと問題があるのは流入イコール放流で放流していることで、本当は定率操作でやらなければ駄目なので、これはちょっとおかしいので考え直さなければ駄目だと思うのですけれども、一応積算雨量を使うと回避できる可能性があるというケースです。

 さきほど2000年の5月に降った100oの大雨が融雪と相まって起きたケースを考えてみます。なおかつ雨も1/100で、さきほど確率処理して出した199oが降りますという最悪の条件でやった時にどうなるかということです。雨は2000年5月の事例を1/100の雨に引きのばして、操作ルールどおり放流したものです。放流量がこの緑色で流入量がこのピンク色です。そして、「ただし書き操作」をやるとこれは放流能力はもう追いつかなくてサーチャージ水位すら超えてしまうようなケースになってしまうということなのですが、では、これに対して逆にどうすれば回避できるのかということを考えます。

 そうしたところただし書き操作を始める36時間前から事前放流を始め、しかもなおかつ、計画最大放流140トンを放流してそれでようやく回避できるという結果なので、これは現実的ではないかもしれないのですけれども、それだけのことをやらないと対応できないようなケースです。ただこれは初期水位が予備放流水位をスタートにしてやっているので、予備放流水位よりももうちょっと低いところから始めれば、少しは緩和出来るかもしれないのですけれども、ルール通りだったらこういうふうになってしまうわけです。

 そういうことで、色々検討の余地はあります。この毎秒60トンという放流量もかなり絞られて小さいので、それで事前放流をやるということが、それしかできないのであればこういう問題については限界があるよというような事例なので、だから考える余地はこれから色々あると思います。とにかく今まで全くそういうことを考えてこなかったので、こういうことはこれから色々なダムで考えるべき問題だというふうに思うわけです。

 そこで今後考えるべき問題点を列挙すると、まずは予測のリードタイムの問題ということがあります。それから、空振り対応です。シミュレーションの例では予測されてその通り雨が降り、ではどうしますかという例なのですけれども、全然降らなかった場合、貯水位がどこまで下がるのか?そしていつ回復するのか?みたいな話もシミュレーションしないとなりません。それから、では事前に放流するといった時に、下流河道の流下能力とか、下流河川でどういうことが起きるかということも考えなければならない。それから、そういう事前放流が必要だということを言っても、そもそもゲートが放流できるかどうかというゲートの性能自体の問題も考える必要があるということです。

 そういうものに対応するためには、どういうことを研究しなければならないのかと言うと、予測情報の活用法として、とにかく予測精度は今6時間という話をしましたけれど、もうちょっとリードタイムを伸ばせるように努力をすることが一つです。これは我々と言うより、気象関係の研究者といった分野の人間に努力をしてもらうということになる。それから、さきほど言ったようにアイディアとしては時系列の予測を使うのではなくて積算値を使う方法も考えられます。

 また、予測を使わないというやり方も提案されていて、中央大学の山田先生が提案していますけれども、これは現在まで流入した量をベースにして、以後は全然雨が降らなくても、低減していく流入量を想定して最低限流入する量はいくらかということを見積もって、それで事前放流するというやり方をされています。もちろんそういうやり方は確実性は高いと思いますけれども、私はやっぱり予測にこだわりたいなと思います。これだけ一生懸命研究してきて、予測情報とかも充実してきて、やっぱり諦めてしまうというのは忍びないので、予測を使うと言うのが私のスタンスです。それから、回復の可能性ですね。さきほど言った利水の話で、いつ回復するのかみたいなこともシミュレーションできちんと出していく必要があると思います。しかしいよいよ、回復しないということになれば、これは補償の問題になるかと思います。補償は制度上できるというような話を聞いたこともありますが、なかなかできると言ってもやるかどうかというのは別問題で、本当にやりやすくするというか、そういうことも考えないと駄目だと思います。

 また、豊平峡ダムの事前放流量ではさきほど無害流量毎秒60トンとのことですけれども、もうちょっと出せるような検討というのをする必要があるのかなと思います。そのためにはゲートの改良の問題もあるし、流下能力の検討もする必要があります。あと、予備放流水位の見直しも検討する余地はあると思います。これについては当然利水者との協議とかもあると思います。それから、複数ダムがあれば利水・治水の安全度を両立させるための話として、この容量振替が検討課題になると思います。

 それから、行政的な実現に向けての課題ということになると、ダムの操作規則をどうするかという話とか、利水の関係もありますので、コストアロケーションの話とか、それからさきほど「ただし書き操作」の事例も紹介したのですけれども、ダム所長が判断しやすい、色々な複雑なことを考えても、実際それは複雑なその状況、状況で、全然変わってきますので、判断しやすいシンプルなルールを決めるというのが、一番大事なのではないかなと思います。後で責任が問われるようなことになった時に、これはこういう根拠で判断しましたということを自信を持って言えるように、シンプルな判断ルールというのが必要だと思いますので、それを実際に導入するためには、考えるべきだなというふうに思います。

 それともう一つさきほどの容量回復の話で事前放流をやって、雨が全然降らなかった場合、特に北海道の場合は、融雪期にそういうことが起きたとしても山の中にいっぱい雪が残っている可能性があります。そういうことであれば、後で雨が降らなくても、雪が溶けて回復してくれると期待できます。その例としてはさきほどの2000年の1/100の雨が降った時の事前放流量はいくらかと言うと、これはあくまでもボリュームの話なのですけれど、1,560万m3でした。これを放流しなければならないということに対して、その時に山に残っている雪の量とか土壌中の水分量を推定した量が9,600万m3ということなので、たっぷり流域に水があってそれがいずれ入ってきて回復してくれるでしょうということなので、単純にこの比較だけで言うと、空振りに終わっても事前放流できるということになります。ただし、それがいつの時点で回復するのかという、時間的な見通しも必要です。発電はヘッドが必要ですから、ずっと回復しないと困るということもありますし、そこはきちんと今後詰めて行く必要があると思います。

 いずれにしても空振りに終わっても利水容量の回復は、流域の貯留量みたいなものを出して行けば、判断を助けるのではないかという一つの例です。流域貯留量は積雪の量とかを観測してきちんと出すというやり方もあるのですけれども、モデルで計算することもできるわけです。融雪や流出は熱収支とか、水収支とか、全部含めたようなモデルで計算することもできて、積雪水量と、それからこれはタンクモデルのイメージなのですけれども、土壌中に貯留されている水の量も出すことができて、それをこの豊平峡ダムに適用して96年〜2007年の10数年に渡って貯留量を計算した例です。したがって、その時々で、この流域にどのぐらい水があるのかという判断が、こういうモデルでも計算ができるので、さきほどの容量の回復ができるかどうかという判断に使えるのではないかというふうに思います。

 今日、発表した話は、色々な論文として出していますので、もし詳しくこれを知りたいという人はこの辺をご参考にして頂ければと思いますし、私に直接問い合わせて頂いても結構です。

 最後にひとこと言っておきたいのは、こんなの当然だろうと言われるかもしれないのですけれど、やはり一体的管理についてです。どうも私は、いまだに河川管理とダム管理は別々にやっているような気がするのです。私も両方実務で経験していますけれども、札幌河川事務所とダム統管は同じ建物に入っていますけれども、あまり所長どうし話はしないのではないでしょうか。今は組織のスリム化で、事務所にダムの支所が入ったり、統合化が進んでいますので、その器が一緒になるだけではなくて、本当に河川管理、ダム管理を一体化できると良いのではないかなというふうに思っています。調査・計画の段階では一体でやっていますけれど、造る段になると分かれてしまいます。これは仕方ありませんがそれがそのまま管理にも引き継がれて、ダムはダムの管理、河川は河川の管理というふうに分かれてしまいます。ダムをやっている人はプライドを持ってやっていますので、よくダム屋と言われたり、万歳のやり方も違うとかありますけれども、やはり造るのは別々にやっても、管理するのは一体でやる必要があるのではないかと思います。ダムが何をやっているか、下流というのは意外と知らないのではないでしょうか。

 私は、ある事務所にいた時に、日曜日ですけれども、ダムで放流しますと、そういう情報が誰もいない事務所にFAXで入ってきました。知らないで下流で「水辺の楽校」というイベントをやっていたのですけれども、その時にダムは自分の管理のため情報を流せば良いというふうにやっているし、下流の河川の方は情報をどうやって獲得するかという意識がないし、そういう問題は全部のところがそうだというふうには言いませんけれども、問題は潜在的にあるのではないかなと思うわけです。これからは治水の問題だけではなくて、利水の問題とか、環境、土砂の問題もあります。こういうものにとって一体的管理は不可欠だと思います。

 さらに付加価値を見出す水管理の在り方も考えられます。これは何かと言うと、私が思っているのは、エネルギー事情がこれから厳しくなります。石油が枯渇してくるという問題とか、CO2を出すなとか、そう言う問題が出てくる。そういった時に、再び水力発電が見直される時代が来るのではないかなというふうに思っているのです。水力発電というのは大きなダムを造って、大きな発電所を造ってというのが従来のスタイルだったのですけれども、これからは小水力発電みたいな、ちょっとした落差を利用して発電して、その需要は分散型と言うか、近くにあるコミュニティで使うための電力、それを供給するみたいな形で使えないかみたいな話が真剣に考えるようになるかもしれません。その中で我々のように水を扱っている人間は、積極的にそういうことも考えていければと思うわけです。ディフェンスだけではなくて、オフェンスみたいな話も考えておいた方が良いのではないかというふうに思います。

 そういうことで、今まではやはりコンストラクション・メンテナンスという考え方だったのがこれからはマネージメント技術が必要です。ただし「つくること」はもう要らないとか、こういう良い方法があるのだったら、新しいダムは要らないのではないかというふうに間違われてはいけません。正しい認識の下、やはり造る必要がある場合は造ることも必要です。これは絶対そうです。

 しかし、それだけではなくて、総合的に考える、重畳的に考えるというのは、既にある物をどう使うかということを、徹底的に技術的に突き詰めて考えるということも必要で、そしてマネージメントしていくことが必要だと思いますので、皆様方の力を結集して、こういう問題を考えていただければと思います。以上で講演を終わりたいと思います。

 どうもありがとうございました。

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