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第12回 河川情報センター講演会 講演記録
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第12回 河川情報センター講演会 講演記録

 大規模水害「広域ゼロメートル市街地」における
 総合的対策を市民と共に考える
   〜短期的対策から長期的都市づくり構想まで〜

○開催日時 平成21年9月28日(月) 17:00〜18:30
○開催場所 (財)河川情報センター 3F  A・B・C会議室
○講  師 加藤 孝明 氏
 東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻 助教/博士(工学)
○講演内容
 それでは、よろしくお願いいたします。

 今日は「大規模水害『広域ゼロメートル市街地』における総合的対策を市民と共に考える」というタイトルで話を進めていきたいと思います。ここにある「広域ゼロメートル市街地」というのは聞き慣れない言葉だと思います。これは造語です。「広域ゼロメートル市街地」とは、海抜ゼロメートル地帯で、田畑ではなく高密で広域な市街地が広がっている市街地と定義し、使っております。日本全国を見渡すと、東京の下町、濃尾平野、それから大阪に存在している市街地です。実は、私自身も濃尾平野の広域ゼロメートル市街地の生まれ、育ちです。しかし、ごく最近までそのことをすっかり忘れていました。それについては後でお話ししたいと思います。

 

 私は、今は都市工学専攻というところに所属しています。専門は都市計画です。土木とはちょっと違いますし、それから河川工学などについても、もしかすると学生時代に勉強したかもしれませんが、ほとんど記憶に残っていないという状態が数年前の状態でした。我々は都市計画の立場から都市防災の研究をずっとしてきていましたが、水害は基本的には河川工学のテーマであり、我々の分野とはあまり関係ないと、実は数年前まで思っていました。しかしながら数年前、とあることがきっかけで、こういったテーマで研究といいますか、実践的な取り組みを始めてきました。今日はその実践的な取り組みの部分についてお話をさせていただきたいと思っております。

 その前に、その取り組みに至る背景として、都市防災の研究者としての問題意識をお話しさせていただいて、その延長に本日のメインテーマである「広域ゼロメートル市街地」における実践活動というのが位置づけられているという流れで説明していきたいと思います。今日いらっしゃっている皆さんは、基本的には防災のお仕事に携わられている方なので、前半は少し軽めに説明していきたいと思います。

 まず防災の基本として、自助、共助、公助というのが必ず言われるようになってきています。皆さん、専門家ですから改めて説明するまでもないですが、自助というのは自分の個人でやるべきことをやると、公助というのは行政がやるべきことをやると、共助というのは地域で助け合う、あるいはまちのみんなで頑張ってやるという概念で、自助、共助、公助を進めればすばらしい社会になるんだという意味で使われていることが多くみられます。これはたまたま渋谷区のホームページですが、自助、共助、公助というのはこういうことですよという説明がなされています。

 これを見ると、この自助、共助、公助が進むと、すばらしい社会ができるのだろうなと思います。しかし、本当にそうかというと、実はそうではなくて、ここにいる皆さんも含めて自助、共助、公助、それぞれ、たいしたことをやっているわけではないのです。

 一応聞いてみましょう。家具の固定をされている方、どれぐらいいらっしゃいますか。20%強ぐらいですね。家具の固定について考える人は多いのですが、実際にはほとんどの人はやらないというのが実態です。

 それから共助といったときに、まちは共助の主体であるといわれており、大体年に1回、町会を中心にして防災訓練を行われています。これについても、ついでですから聞いてみましょう。防災訓練に過去5年間で参加したことがある方? あ、皆さん、お仕事がきっと忙しいんでしょうね。実は私も7年間今の住宅に住んでいますが、1回だけ参加しました。そのときは600世帯中8世帯が参加していまして、冬の寒い日だったということもあるんでしょうが、参加世帯は非常に少ない訓練でした。ただ、そのときの訓練は、丁目毎の安全確認の訓練だったようで、三丁目まであるので、報告する人が3人と、報告を受ける人が1人必要ですので、フリーの参加は4世帯という非常にさんざんたる状態だったわけですね。自助だと家具の固定は一応考えるけれどもやらないということですが、共助だと考えることすらもしないというのが実態だといえます。同じように公助に関しても、限られた財源の中でできることを行うといっているだけで必要なことをすべて行っているわけではありません。要するに防災というのは施政方針なんかでも必ず出てくる言葉ではありますが、実は公助としては限られた財源の中でやれることをやっているだけで、残りの部分に関しては自助、共助で頑張ってくださいという使われ方をしているわけです。ですから、言葉面としては自助、共助、公助という言葉は非常に美しくて、理想的な社会ができると錯覚を起こしますが、実態は必ずしもそうなっていない。だから何となく社会全体がだまされているような気分になってしまいます。

 それでは、どういう状態であればいいのかということで、私なりに考えているのがこの構図です。あるべき姿になるために必要な条件というのは2つあります。自助、共助、公助、防災対策をやるのはこの3つの主体しかありませんので、これについては前提として、1つ目は、この自助、共助、公助が起こり得る地域の被災状況について同じように認識しているということが挙げられます。つまり、防災対策を進める各主体が「敵」をきちんと正しく理解しているというのが1つ目です。2つ目の条件は、事前に自助、共助、公助がお互いに何をどこまでやってくれるかということをきちんと理解し合っていることです。これが2つ目の条件と思っています。

 こういう状況になると、例えば、自助、共助側からみると、敵がよくわかっていて、公助は今の状態だとこの程度しかやってくれないということがわかっています。そういった状況認識に基づくと、では自分たちでやれることを順番に前向きにやっていこうという気分が芽生えてきます。一方、公助に関しては、自助、共助を「お願いします」ではなくて、自助、共助というのはこの程度しか今できない、しかも「「敵」はこんな状態である」という認識がなされているので、限られたお金の中で防災施策を適正化していこうと、効率化していこうという気分が芽生えます。各主体にそういった気分が芽生えてくると、自助、共助、公助と、もちろんこの敵に対して100%対応することは今現在不可能ですが、「敵」に対応できるように一歩一歩前進していける状況がつくれるのではないかと私は理解しています。結果として、自律的、持続的な自助、共助、公助が実現されていくと思います。

 研究では、こういう状況をつくっていくために必要な技術的支援というのがあるだろうと考えています。1つは、地域が抱えるリスクについてもう少しわかりやすく、だれしもが理解できるような状態にするという技術的支援が必要だろうと考えています。もう一つは、対策の効果をきちんと説明できるような技術的支援が必要だろうと考えていまして、最近非常に使いやすくなっているGIS(地理情報システム)と、それから研究が進んできている防災性評価技術、別の言い方だと災害シミュレーション技術といってもいいと思いますが、この2つの技術に着目して、計画あるいは対策支援システムというものを開発していこうと、随分前に発想しました。

 いろいろなものを対象にして、この考え方に則って支援システムをこれまで開発してきております。1つは防災まちづくり支援システム、お手元の資料にパンフレットが入っています。これは地震に対して強いまちをコミュニティベースでつくっていこうとしたときに使う道具です。これは産官学で開発したものです。一方、行政の防災計画を支援する仕組みも開発してきています。それから、これはまだ実用化に至っていませんが、今回のような大規模水害に対して支援していく支援システムというものもつくっています。

 どういうものかというと、GISデータでコンピューターの中に仮想的にまちをつくる。それに対して浸水シミュレーションだとか地震の被害シミュレーションといったものをかませます。そうすることで、現状のまちが抱えるリスクをきちんと可視化することができます。ここまでは、比較的よくある考え方のシステムです。支援技術のポイントはこの先にあります。このGISの中に対策を入力するツールを準備します。このツールを使うと、ある対策を実施した後のまちをコンピューターの中に造ることができます。新しい町がGISデータで表現されていますので、それに対してまた同じように防災性評価技術、災害シミュレーション技術を適用する。そうすると対策の効果を確認することができます。この繰り返しにより、その地域に合った対策あるいは計画をつくり込んでいくというのを支援技術と呼んでおります。技術的にはこうしたしくみが実現できる状況になっていますが、一方でそれを社会で使いこなしていくということが非常に重要になっていると思います。

 ここで、その前に防災まちづくり支援システムを例にとって説明したいと思います。地震防災のまちづくりが対象です。まちの現状を知り、まちの危険性がわかり、更に、新しいまちをコンピューターの中につくって、対策の効果を確認していくということができます。これが現状です。あまり詳しく説明しませんが、現状の市街地がこのようにGISで表現されています。二次災害として地震火災が発生すると、こんなふうにまちが燃え広がっていってしまいますよというのをシミュレーションにより可視化されています。同じように建物が倒れて道路が通れなくなるといったようなものも評価することができます。例えば、この赤い家屋は助けに来てもらえないことを表しています。

 では、こういう状況に対してまちをどう変えるかという議論では、マウスのクリック操作だけで、道を拡幅したり、建物を建替えたりすることができます。将来のまちとして、例えば、準耐火造への建替え、生活道路の拡幅を進めた場合を考えて、それをGISデータに反映させます。その結果、燃え広がり方がどう変わるか、或いは、これは危険度マップというものですが、危険な地域がどれほど減少するかという評価を行うことができます。実際のまちづくりの現場ではまち歩き等のアナログ技術とこうしたデジタル技術を組み合わせて、住民と一緒にまちづくりを進めているところです。

 こういった道具の位置づけは、第一に、リスク認知を適正化することにあります。一般論として理解しているが、自分の問題として理解し、次の行動につながる意識へ変革することをねらっています。住民・地域発の内発的な活動、まちづくりを喚起できると考えています。こういう地域にお住まいの方は、自分の住んでいるまちが危ないというのは薄々感じているようです。ただ、感じてはいるものの、これは人間の心理として、「でもまあ大丈夫だろう」というのがどこかにあり、具体の行動には移れない。しかし、こういう客観的なデータをベースにした客観的な説明があると、「やっぱりそうか」ということを再確認して次の行動に向けて一歩前に進むことができるというわけです。二つ目のねらいとしては、「良い」計画づくりを支援することにあります。地域で目標とする必要な安全性を確保し、総合的な見地から良いまちを目指すまちづくりを検討することができると思います。3つ目は計画づくりの円滑化。これはすべての人が使えます。住民も使うし、行政も使うし、間に入る都市計画コンサルタントなんかも使うと。そういったことで話し合いがうまくいくし、同じ土俵の上で議論ができるようになるという意味で非常にすぐれているかなと感じています。

 しかしながら、このシステムは、はかれこれ7年ぐらい前につくり始めたものですが、当初は爆発的に普及すると踏んでいましたが、今現在、民間と行政をあわせておそらく全国で四十五、六ユーザーぐらいが利用しているに過ぎません。思ったほど普及は進みませんでした。その理由は、いろいろ原因はあると考えられますが、ひとつは、行政側の心理として、危ないという情報をわかりやす過ぎる状態で住民の人に出していくということに対して、若干の躊躇があるというのが挙げられると思っています。「西高東低」といっていますが、地域により雰囲気が異なります。大阪は非常におもしろくて、「どんどん出せ」というような雰囲気を感じます。行政の人の心理として、危ないということを出すときには、「対策とセットで出さないといけない」、「対策が準備できない状態だと危ないということも出しにくい」というか出したくないと、気持ちが生じます。古典的な反応ですが、私自身も理解できます。それに対して、大阪方面ではもうどんどん出しちゃう、もちろん対策なんて持っていない状態で、です。住民から「何かやれ」と言われたとしても、「金がないから俺たちにはできない」と言えるし、逆に住民側も、「自分のところが危ないから何かしろ」と言われたときに「行政に対して何か言ったって、あいつら金がないからできっこないから、自分たちでやろう」と、ある意味で両者の非常にうまい開き直りがあって割とうまく進んでいるようです。それに対して東の方は割と慎重な姿勢で、対策をうまく組み合わせて出したいというのが潜在的にはあるのかなと印象を持っています。

 その観点から言うと、大規模水害に対して、「広域ゼロメートル市街地」では、どのような対応すべきか、とてもチャレンジングな課題と感じています。広域ゼロメートル市街地では、現実的な対策をイメージするのは非常に困難です。法律で洪水ハザードマップをつくれということになっていますので、行政で一応作成して公開されています。しかし数十万以上の単位での広域避難は、現実的には多くの課題を抱えているのが現状だと思います。

 今回は東京都葛飾区の西新小岩、東新小岩地区での取り組みを紹介したいと思います。場所は後で説明しますが、新小岩駅の北側、中川の七曲という蛇行しているところがありますが、そこの南側の地域になります。

 都市計画系の都市防災で水害にほとんど目を向けていなかった私が、なぜ水害の防災まちづくりに取り組むようになったのかということですが、とあるところで今のように地震防災に対する防災まちづくりについて、こうやって話をしていたんですね。話をしていたら、「水害のまちづくりにも使えるよ」という話を、聞いている方から言われまして、じゃあちょっとやってみようかというので、2004年から、ですから5年前からこの取り組みを始めました。最初は今説明してきたようなこういった災害シミュレーション技術とGISを組み合わせて、より良い自助、共助、公助の姿にしていこうという発想で、このロジックをそのまま水害に適用し、水害・地震水害対策検討システムというのを国の助成金を使ってつくってみました。つくっただけでは意味がありませんので、それを社会的に使いこなしていく技術をみんなでつくろうということで、2006年度から現在に至るまで、先ほど申しました地域で住民の人たちと一緒に議論を深めてきたということです。

 冒頭にお話ししましたけれども、自分がゼロメートル地帯で育っていたにもかかわらず、2004年度まで「水害は河川局にお任せしておけば大丈夫だ」という錯覚に陥っていました。この2004年度に、水害に目を向けようとして少し勉強してみました。そうすると、基本的に地震防災のまちづくりと水害の防災まちづくりは同じであるという当たり前の事実に気がつきました。共通事項としてはここに書いてあるとおり、自助、共助が重要だということ、それからハザードというものが間違いなく存在していること。対策を進めていくためには市民のリスク認知の適正化というのは不可欠であること。あとはソフトとハード両方の組み合わせが必要なこと、基本的に共通です。一方で相違もありました。水害は河川局に任せておけばいいと盲目的に私も思っていましたが、逆に言えば、水害に対して市街地側の備えが決定的に不足しているということに気がつきました。

 例えば地震対策ですと、これは東京都の広域避難場所の計画ですが、東京は地震が起こると同時多発火災があって、今でも神戸の100倍ぐらいの火災被害が出ると言われています。その火災から全都民の命を守るために、安全であるということが確認された避難場所を指定しています。各避難場所には圏域が設けられていて、その圏域の人が正しく指定された避難場所にもし逃げれば、理屈上全都民、これは昼間人口も含みます、全都民の命が守られるという計画になっています。避難場所を指定するに当たっては、工学的にきちんとした計算をしています。各避難場所の候補地があったときに、周りを火災で囲まれた場合を想定し、周りの市街地が炎上した場合、市街地の状況によって異なりますが、ある高さの炎が立ちます。その炎から避難場所の中の地点が受ける熱量を計算して、人間が耐えられる区域を計算します。この面積に何人入れるかというのを計算した上で圏域を設定しています。ですから、かなりロジカルに工学的な根拠に基づいて避難場所の指定をしているわけです。それに対して水害の場合、ここに書いてあるごくごく簡単な問いに対しても市街地側ではきちんと回答できないと。そもそも逃げられる空間があるのか、もしあったとしてそこまで逃げられるかどうかということも、少なくとも市民レベルというか当時の私レベルでは回答できないという状況だったわけです。そういう意味で基本的に水害まちづくりと地震防災のまちづくりは同じですが、やはり市街地側での備えというのが根本的に不足しているということを感じました。それでは、本格的にやってみようかということで現在に至っています。

 浸水想定区域図、これはよく見慣れた絵だと思います。皆さんは専門家ですから口幅ったい感じがしますが、この地域は地盤沈下でどんどん下がってきて、結果的に海抜ゼロメートルというか海抜マイナスメートル地帯になった地域です。私も子供心ながらに覚えていますが、町役場に行くと「今年の海抜ゼロメートル」って電柱に張ってありました。「去年の海抜ゼロメートル」というももう少し低いところに描いてあって、年々、海面が上昇していくという経験をしました。そうすると、段々、川の水面は当然自分が住んでいるところよりも高いというのがだんだん当たり前に感じるようになってしまいました。これはまちの人に言わせると、「そういえば昔2階の窓から水面が見えたな」と、今は当然見えなくなっています。それは堤防が高くなっているというのも理由ですが、自分の家が沈んでいる、多いところだと3メートルとか4メートル程度、それぐらい地盤沈下が進んでいます。さらに、こういう状態が面的に相当広い範囲で広がっています。そうすると、ハザードマップが前提としているような、水が来たら近くの安全な場所に逃げるという考え方では、対応するのは非常に困難です。つまり、全域水没してしまうので、避難場所を近隣に確保することができません。

 さらに、先ほど説明したように、排水機能が向上していますので、ここに住んでいる人たちは、自分のところが危ないという意識が非常に低くなっています。川は自分が住んでいるところよりも上にありますが、今まで何も起こっていないから大丈夫だというような意識になっています。

 3番目としてはハザードが大きいと、想定される被害規模が甚大であることが挙げられます。あと4番目、特にここに着目していますが、気候変動の影響が出てくるとこの地域の危険性というのは顕在化してくると考えています。少なくともすぐ明日こういった危険性が顕在化するわけではなくて、数十年後先に危険性が確実に顕著になってくるというのがこの地域の特徴と考えています。

 この地域に対して、水害対策支援システムはあるし何かやってみようかということで、ワークショップをやるということを最初に地域の人と発想しました。その目的としてはリスク認知の適正化と対策の検討、それから住民主体の取り組みを喚起していこうということを目的として設定しました。

 この取り組みの特徴は、我々、専門家集団そして地元で活動するNPOの企画で最初この一連のワークショップを始めたことです。ポイントとしては、主体が行政ではないということです。行政だと、先ほど申しましたとおり対策とセットで説明しなければならないという点でやや消極的な姿勢が見えるのと、あと仮に「この地域はこんなに危険性を持っていますよ」と行政側が言ったときに何か市民から対策を要求されることにつながる可能性もあります。市民は行政に言われれば要求するけれども、我々だとかNPOが言った場合には、要求せずに一緒に考えてくれるのではないかという期待がありました。それからもう一つが、地元NPOが参加しているというのが非常に重要なポイントです。我々専門家というのは大学に職を持っていますので、いついなくなるかもわからない状態です。しかしこういう取り組みは、継続的にやっていかないといけないものです。そのときに我々だけだと不安だけれども、地元のNPOが参加することで持続的な活動が保証されるというのもあって、この組み合わせであれば安心して取り組むことができました。

 それから2点目としては、我々含め、住民、つまり自助、共助が対策検討を主体的かつ発見的に行うこと、というのを目的にしました。地震防災の場合はある程度答えは分かっています。どんな密集市街地でも目標像は大体イメージできます。それを実現するのが難しいというのが地震防災の難しさです。一方、「広域ゼロメートル市街地」の難しさというのは目標となる解答がわからない。だから我々自身もわからないし、皆さんも多分わからないと思うんですが、模範解答を準備しないというか、準備できない状態でとにかく議論を先に進めていこうと、結果はどうなるかわからないけれどもやってみようかということが2つ目の特徴になります。

 それから3点目としては、GISで既に水害対策支援システムができていましたので、それのアウトプットを活用する。つまり言葉とか簡単な資料で説明するのではなく、客観的に議論していくための素材をきちんと準備しているというのが特徴と考えています。

 それでは、これから一連の取り組みについて細かく説明していきたいと思います。残り時間45分で説明していきたいと思っていますが、その後15分ぐらいで、本日、河川の専門家の方がこれだけ大勢お集まりいただいていますので、その河川側の専門家の方と今から説明するものを素材にしながら、議論させていただきたいと思います。

 対象地域は、この図のとおりです。荒川、中川が上流から流れて、荒川に平行して流れています。総武線の新小岩駅です。荒川、新中川、総武線と中川、ここが七曲といいますがが、中川で囲まれたこの区域が今回の対象地域になります。人口3万2、000人ぐらい、40年前ぐらいから急激に宅地化が進み、今では市街地で充填されています。戦後急激に地盤沈下して全域がゼロメートル以下になっています。大きな水害としては昭和22年のカスリーン台風までさかのぼります。ですから七十五、六の方ですとしっかりカスリーン台風の記憶が残っているという地域になります。

 今回の取り組みに参加したのは、新小岩北地区連合町会、地元で活動するNPO「ア!安全・快適まちづくり」、我々専門家集団「広域ゼロメートル市街地研究会」の3者です。広域ゼロメートル市街地研究会は、都市計画系の専門家が集まっており、GIS、防犯、まちづくり。住宅政策の専門家で構成されています。仕掛けとしては地元のNPOが町会に呼びかけて集まってもらう方法をとり、我々の市街地研究会はNPOと一緒にワークショップの企画をするという形です。ですから最初はこの連合町会にお願いして集まっていただいて、ワークショップをやるというところからスタートしました。

 これは平成19年までの絵を示していますが、平成18年に3回ワークショップをやりまして、平成19年に2回ワークショップをやって、そのまとめとしてシンポジウムをやっています。この間、別の予算で2回の催しをしています。1つはボートの乗船下船・親水体験イベントというのを行い、みんなでボートに乗りに行っています。それからもう一つのイベントは「川から街を見る」というので、大きな船を借りまして、荒川側から自分たちの住んでいるまちを見るというイベントやっています。平成20年度はこれに続いて2回のワークショップをやっています。今日は平成19年度までのことについてお話をして、平成20年度については少しだけお話をしたいと思います。

 まず、1回目の目的は、水害の危険性を理解する、リスク認知の適正化としました。。第2回目は、自助、共助の考えるべきことを明確にすること、第3回目は、対策の課題を明確にしていくこととしました。3回目終了後、葛飾区から荒川洪水ハザードマップが公開されましたので、これを受け、第4回ではハザードマップの理解と現状の課題を理解するとを目的としました。第5回では、ここまでのワークショップで、すでに短期的な対策についてはある程度検討を終えていますので、ここでは、長期的な対策を考えるというのを目的として設定しました。最後に全体の振り返りと、今後の展開を議論するために、シンポジウムを行っていました。

 これが平成18年度、今説明したところですね、1回、2回、3回を表しています。ワークショップを行う留意点として、基本的には住民主体で考えていくということを惹き起こしたかったので、住民の内発的な気づきと主体的な議論ができるような状況をつくり上げていくことに気を使いました。最悪な状況は、行政への一方的な要求型の議論になってしまうことでした。「ここは危ない」、「じゃあ、ああしろ、こうしろ」と一方的に要求が出てくると、そうならないように配慮していくということです。それから先ほど申しましたとおり、GISの出力を活用して、なるべく客観的な情報に基づいた議論をしていくということに留意しました。

 第1回目の様子です。水害対策支援システムからの出力というのはこの図のような感じです。左上から、地盤高、建物の階数、最大浸水深。最大浸水新のデータについては荒川河川下流事務所の方から以前いただいたものです。そして、地盤高と建物の高さ、それから最大浸水深とか時系列の浸水深をうまく組み合わせ、建物が沈没していく様子を時系列であらわせるようなものもつくりました。この図は、静止画ですが時系列で表示していくとアニメーションになります。住民の方は基本的に自分の家しか見ていませんので、自分ちがどうなるかというのが具体的なイメージで見えるわけです。

 分かりやすいといってもコンピューターだけでは不十分ですので、実際にまちに出まして、この図のような棒を持ちまして――地域の南側です――破堤してから何分後にどっちの方向からこれぐらいの速さで水が流れてきて、これぐらいの水深になりますよというのを、GISでデータを確認した後に実際にまちに出て、さらにリアリティーを高めていくというようなことを行いました。その後、部屋に戻って話し合いをしていくという手順としました。

 この地図を見せているときには、先ほど言ったように自分ちが水没していくのを見て、会場でいろいろなところからため息が出るわけですね、「ああ、沈没しちゃった……」と、それでかなりリアリティーは高まりました。ここもよかったし、あと実際のまちに出てリアリティーを高めるというのもよかったのですが、戻ってきて、「じゃあどうしましょうね」なんていう話をするときには、町会の方々はNPOに呼ばれて来ているという意識だったと思います。ここで話し合いを始めて、「さあ水が来たらどうしましょうか」と言うと、我々の方に要するに「あなたたち、模範解答を持っているんだろう。早く教えてくれよ」というようなニュアンスを感じました。ところが我々も模範解答を持っているわけではないので、一緒に議論していく方向を確認しました。でも残ったのは、「何かやらなきゃいけないな」というのが一応第1回目のワークショップのアウトプットになります。

 第2回目は、「じゃあ何かやらなきゃいけない」というのを踏まえて、少しやるべきことを明確にしましょうということを目標にこのようなプログラムにしました。まず「自助、公助、公助」の理念と「自助、共助」の重要性と、これは先ほど冒頭に私が申し上げた話を住民の方にさせていただきました。要するに行政への要求型にならないようにするための布石をここで打っています。それから次に、これは荒下の方にも協力を得まして、事前に自助、共助と公助のやるべきことというのをお互いに確認していくという意味で、公助の防災体制についてレクチャーを受けました。

 それから3番目は、1回目の議論の中で経験、要するにカスリーン台風の体験談を語る年配の方、また「地域で何をしましょう」と問われたときに住民の方がおっしゃっていたのは、「情報がなければ何も考えることができない」という議論が出ていました。いずれも重要なことなのですが、一方でそれに引きずられすぎるのも弊害があるという注意喚起として、カスリーン台風のときと現在というのは地域の状況が違っていることに留意し、体験談を現在の時代に翻訳する必要があることを共有しました。例えば、カスリーン台風のときは、水が来ても窓についている雨戸を2枚ぐらい重ねればいかだができたそうです。ところが今のまちにはそのようなものないし、そもそも地盤沈下が当時と比べて数メートル進んでいるという状況をふまえる必要があります。だから経験そのものではなくて、経験を現在の状況に置きかえて理解する必要があるというような話を企画者側からしました。

 情報に関しても、情報が来てから行動することが被害を大きくする事例もあることを共有しました。例えば津波の場合、昔であれば「地震が来た、津波が来る、さあ逃げろ」という行動パターンだったのが、最近は地震が来たというと「テレビをつけろ、NHKを見ろと、あるいはインターネット見て警報を確認する」ということになります。要するに結果的に逃げるのが遅くなるような状態になっていると思われます。これは情報化社会の弊害であるということをおっしゃる先生もいます。そういう意味で、きちんと地域としてやるべきことを、外から入ってくる情報だけではなくて、自分たちの内発的な備えとして進めていく必要があるというようなことを確認しました。その後、この前振りを終わった後に、地域でやるべきことということをきちんと議論してもらいました。

 2回目と3回目の間には、宿題を地域の人にお願いしています。答えにつながる手がかりを自分たちで考えていく、ここに書いてあるように内発的・主体的な対策検討を盛り上げる仕掛けとして位置づけました。町会の方に地域にある防災資源を調べることです。防災資源としては避難所、逃げ込めそうな空間、そして避難手段、備蓄物資、食料備蓄を探してきてもらって、図面に落としてもらいました。それを我々がリスト化して、最後GISに入れるという作業を行いました。この宿題が非常に効果的でした。1つは当初の予想どおり、自分たちで対策を考えなければいけないという雰囲気が盛り上がったということ、あとは逃げ込めそうな空間を探す過程で、マンションの管理人さんや管理組合を訪問して「いざとなったら逃げ込ませてくれ」というような協力要請を町会として進めまられました。つまり、実際に対策が進んでいったという効果がありました。

 新たな発見としては、実際に資源を落とし込んでみますと、基本的には逃げ込める建物は非常に少ないということ、あと東京の場合は地震防災に偏り過ぎていて、地域に備蓄物資や食料というのは比較的たくさんありますが、その大半は水に浸かってしまうということが確認できました。あとGISで計算して、避難が可能な床面積というのをある仮定を置いて計算して、何人ぐらい入れそうかというのを計算して、これを皆さんに提示しています。

 第3回目は、対策を具体的に考えてくことを目的とし、今ご覧いただいたようなGISを出力して町会の現状を理解することに務めました。ここで「客観的災害状況像」と書いてありますが、これは私がよく使う言葉です。通常どういう被害状況になるかというのは簡単に出てきますが、それ加えて地域での対応力、今の例でいうと防災資源を重ね合わせることで、地域で自分たちがどういうことをやればいいのかという想像力が芽生えてくるような状況を描くという意味で、「客観的災害状況像」という言葉を使っています。これを提示して、地域でどんなことをやればいいのかということを考えてもらうということを行いました。

 その前提として、先ほどGISで浸水しない床とか逃げ込める床を計算して、そこに何人収容できるかというのを計算し、その一覧表を町会毎に作成しました。このときに少し注意した点は、設定する仮定により、結果が大きく異なりますが、安全側に仮定すると、全くだめな状態になります。それではもう何をやってもだめだという感じになってしまいますので、堤防の上も逃げていいという仮定を置いて、想定避難人口と避難収容人数の差をできるだけ小さくするようにして表にしました。要するに、地域で工夫して少し頑張れば何とかなりそうだという状況を元に、次の行動の目標を近くにおいて議論を進めてもらいました。

 その結果、短期的な対策として安全な空間の確保、これは近隣のマンションと避難協定を結ぶのはお互い難しいけれども、協力要請を行うことですとか、あとは避難方法の検討と避難のための事前準備を町会でやっていこうといった内容になります。また、要援護者対策ですとか、地域における情報の収集、共有の仕方等が挙げられました。あと3点目は取り残されてしまった場合と、取り残され対策というのも必要との指摘。あとは、危険性についての認識を地域内で普及、啓発していく必要があること。それから長期的な対策としては安全な空間を確保していくこと。これはスーパー堤防も含まれる話ですが、高台を地域の中に確保してく必要があるとの指摘です。

 それから人材の育成として、短期的な対策を今後も維持していけるような人材づくり、あるいは体制づくりというのが必要であるいった内容が議論されました。今回のワークショップは、町会ベースでやっていますので、きちんとは統計していませんが、平均年齢はおそらく70歳ぐらい、町会長さんレベルだと七十四、五歳ぐらいの方が多いと思われます。ですから、七十四、五歳の人がどんなに頑張っても、おそらく十年後にはもう下火になってしまいますので、それを引き継ぐ人たちをつくっていく必要があるだろうということが住民の方側から出てきました。具体的に取り組んでいこうとしたときに、これは実は企画者側からこの最後の部分は与えています。自助、共助、公助とやると、公助への要求型になってしまいかねないので、自助、共助を中心にして、自助、共助を進めていくために必要な行政の支援は何かというような形で、具体的な取り組み方法について考えてもらいました。これは1つのグループの成果ですが、おそらく今専門家含めて考えられることがほぼ網羅的に出されているのではないかと思っています。

 以上のように、1回目、2回目、3回目で、地域で主体的に取り組めるような対策というのが、きちんと地域の中から出てきたということになります。3回目の後にボート乗下船体験というのを行いました。これはこの議論の中で、短期的な対策として、水が来てしまったらボートで逃げようというのがいろいろなところから出てきました。それでは実際ボートに乗ってみようということで、葛西臨海公園に行きまして、実際にボートを組み立てて海に出るということをやりました。地域の人に広く声をかけて、ワークショップ参加者でない人にも門戸を広げました。この子供だけ地域の人ではなく、私の息子です。お父さんは休日、ワークショップで休みがなくなっているので連れてきまして、ボートを一緒に組み立てて海に入りました。私も初めてボートに乗りましたが、思いのほか真っすぐ進まないということが確認できました。少なくとも洪水のときにこれに乗って逃げることは非常に難しいというのが、実感でしたし、地域の人たちも同じ感想を持ちました。それがこの体験をした1つの効果ですね。ただし、真っすぐは進まないけれども、荷物を積んだり、あるいはお年寄りなんかを乗せて、自分は水の中に入って引っ張っていけばかなり使えそうだという確認もできました。

 もう一つ間接的な効果としては、このボートの体験というのは町会から一応全員に案内を、住民の方すべての人に対して案内をしました。その結果、この写真の子供連れのご家族、通常の町会主体の会合には参加しないような方も参加しました。一応念のため、この子供は僕の関係者じゃありません。数は多くありませんでしたが、地域の中でほかの階層に少し広がるという間接的な効果が見られました。

 次が第4回目。第4回目の前に葛飾区の荒川洪水ハザードマップが公開されました。1回目から3回目までというのは、水が来たという情報をもとにして、さあ地域で何をするかという議論をしていましたが、ハザードマップは浸水前に避難準備、避難勧告・指示が発令されるというのを前提にしていますので、議論の前提が異なります。その前提の違いを踏まえて、再度、議論してみようということで始めました。葛飾区の荒川洪水マップはこうなっています。荒川があって、葛飾区の西側の地域はもう完全に水面下です。場所によっては2階の床まで水没してしまいます。このハザードマップでは、荒川沿川の人は水元公園まで、新中川と荒川沿線地域の間の人は千葉・埼玉に逃げるということになっています。ですから避難勧告が出されると、オレンジ色の地域の方、約二十六、七万人ぐらいだったと思いますが、この方たちが民族大移動のように10キロぐらい移動することになります。よく読むと、公共交通機関を使って逃げてくださいということが書いてあります。ハザードマップが公開される前に、「千葉・埼玉まで逃げるしかないな」なんて言っていましたが、やはりそうなってしまいました。

 これを踏まえて、避難勧告が出るという前提で、もう一回各地域で取り組めそうな短期的な対策を検討しようというのを第4回目の目的としました。プログラムはこうなっていまして、まず先ほど説明したボートの乗下船体験の総括を行い、要するに使えそうで使えないと、でも使えなくもないというようなことを総括しました。次に議論の前振りとして葛飾区の防災課の方よりハザードマップについて説明をしていただきました。各戸配付でハザードマップは配付されていましたが、参加されている方でハザードマップの存在に気づいていた人というのはごくごくわずかでした。このときハザードマップについてきちんと説明を受けて初めて理解した方がほとんどでした。おおよそ予想されていたことではありましたが、防災課の方はある意味つるし上げ状態でした。「そんなこと言っても、できるわけないのではないか」というような雰囲気でした。今回の企画者は、NPOと我々ですので、そこは上手に引き取ることができて、事実だけ住民の方に説明ができたという状態に持っていくことができました。もしもこれを行政主体でやっていたとすると、おそらくつるし上げられた状態でこの回は終わっていたのではないかと思われます。

 それで第3番目に取り組めそうな課題ということで、ここでいろいろな検討をしました。ひとつは、公共交通機関で遠くまで避難することにとなっていますが、実際にはとる行動について議論を深めるために、具体的な3つの世帯を設定し、ロールプレーイングを行いました。小学生を持ったお母さん、八百屋さんを営んでいる自営業者、要援護者、要するにお年寄りを抱えて介護しているお宅の奥さんという主人公を決めました。そして、その立場に立ったときにどういう行動をとるかというのを各グループで議論してもらいました。ここで出てきた結果としては、やはり避難勧告が出たときにすぐに逃げられるという人は非常に少ないということがわかりました。ただし意見もいろいろあって、すぐ逃げるという人がいる一方で、逃げないという人もいると、それをきっかけにして地域の問題として深く議論してもらうことができました。

 次が第5回です。第5回は少し長期的な対策を考えようという方向に振りました。短期的な対策を考えることも重要で、4回目までである程度その形が出てきましたので、今度は少し長期的に考えてみようと。第3回のワークショップの後に安全な区域を地域の中で確保していく、その地域の中で高台をつくっていく必要があるという議論がでました。ですからその部分に関して少し議論を深めようということをやりました。地震防災のまちづくりでも見られますが、住民の方と議論すると、大体自分の人生の残り期間ぐらいの時間、スパンで物事を発想されることが大半です。ですから短期的な対策については、しっかりとした議論はできるのですが、どうしても50年先といった超長期な視点からの議論は抜け落ちがちです。そこで長期的な対策を議論するために、次のような仕掛けをしました。学生の考える100年先の広域ゼロメートル市街地というものを学生に提案してもらいました。これは私の別の大学の授業の一環でそういう課題を出して、学生につくってもらいました。要するに100年先って、もうほとんど先の見えないような、どうなるかよくわからないような時代の市街地像をここで発表してもらいました。100年先のある意味、奇想天外な将来像を見せることで、すぐ先の短期的な対策に焦点をおく人たちの視点を、100年先はないにしても、その中間の30年とか50年ぐらいに飛ばそうと意図しました。これをベースにして20年先、30年先、あるいは50年先ぐらいの市街地について住民の人に議論してもらいました。これは慶應の学生の案です。今のまちは味わいがあって良いので、100年後も今のまちの雰囲気を基本的に残すことを基本方針とし、一方で、危険性を排除するために、洪水になったらこの避難空間である道路が浮き上がるようにするというようなことを提案しました。

 あともう一つは、歩行者空間は空中につくるという提案です。建物は全部ピロティ形式にして、通常は、グラウンドレベルを道路空間や運動場として使い、洪水が起きても被害を極小化しようとする提案です。今からこういうプランで順次建てかえを進めていけば、100年先は人間にとっては安全なまちになるというのを出しました。ここでは発表しませんでしたけれども、別の学生はいっそのこと水をまちに引き込んで、水の中で生活するようなものをつくった方がいいみたいな話もありましたね。奇想天外に見えます、こういうのを若い学生さんから聞いて、参加者の方は視点を長期的に飛ばして議論することができました。

 ちょっとあまり時間がないので先に行きますが、議論の仕方としてはこれも少し工夫しました。レゴブロックは町会の人数に対応していて、ブロックの大きさはその人たちが逃げるのに必要な面積をあらわしています。ここにあるようにブロックを縦に積めば、水につからない高い建物に3階、4階、5階という形で逃げるというのになりますし、平面で置けば高台に逃げるということになります。それで各町会の町会長さんに集まっていただいて、それぞれ自分たちの町会の住民の人たちをどこに逃がすか、逃がすためにどういう空間を作るべきかということを議論してもらいました。地図を広げてこのブロックをこうやって動かしていくわけですね。町会の方たちは「博打をやっているみたいだな」なんて言いながら、楽しみながらされていましたが、結果的には二つの案に収斂しました。分散型で、地域の小中学校だとか公園を順次建替えにあわせて高台化していく。そうすることで身近な空間に逃げ場所をつくっていくというのが1つです。もう一つは、地域の中にある大きな公園と、それから堤防沿いを高くしていこうという案です。こちらの案のメリットは、水が地域の中に入ってきても高台が空間的につながっているので、外の地域から支援を受けたときに、円滑に避難者に支援が行き渡るという点が挙げられました。一方で避難所の運営なんかを考えると、ほかの町会もいるし、人が集中して多くなるのでその管理がかなり難しいということがあげられました。いずれにしても、こういう形にすれば長期的には安全な空間が確保できそうだというようなことが議論されました。

 あとはこれと並行して被災生活のイメージの共有ということで、公園を高台化した場合、それから堤防沿いを高台化した場合、あとは小学校を高台化したときにどんな避難生活が待っているのかというのを、この写真のような模型を使いながら議論しました一応ここまでで長期的な対策も議論することができたと考えています。

 ちょっと時間がないので飛ばしますが、その後イベントとして川から街を見るというので、この船を借りまして、町会の人たちと荒川のクルージングに出かけたということですね。これの意図としては、やっぱりこういった議論をしていくときに、暗い話だとか先が見えないことだと、一瞬盛り上がりますが、持続させることを難しいと感じています。変な語呂合わせじゃないんですが、水に浸る浸水というのと、水に親しむ親水というのを一緒に考えると楽しいのではないかということで、発想の転換をしようということで、川から街を見るという企画を行いました。

 ここまでで一通り議論が完成しましたので。シンポジウムを昨年5月に行いました。地域の人に参加していただいたのですが、もうこの頃になると、私たちは一応企画しますが、人集めだとか地域での周知については、もう町会の人が中心になってやっていただける状態になりました。さらにここでは、これは非常によかったなと思っていますが、この地域の町会の人たちが隣接する地域、今回の対象地区に入っていない地域の方々にも自主的に声をかけて人を集めてくださいました。同じ境遇の地域への展開が自律的に進められる状況になっていたということと理解しています。

 ここまでの取り組みとして、1つはいろいろな主体が参加していました。我々専門家集団、NPO、町会というのがあって、それぞれ役割を持っていました。我々はNPOに技術移転しながら町会全体を支援していく、町会はある程度意識が高まったところで、周りの町会だとか町会に積極的に参加しない一般住民への展開、あるいは近隣地域への展開というのをやっていく。我々専門家としてはこういった活動を含めて、この場もそうかもしれませんが、社会的に課題を共有していくことを進め、行政側から逆に支援を引き出していく、というように、それぞれの役割分担をしながら連携していくという形がうまくいった例ではないかなと思います。

 最後に、最近の動きを紹介したいと思います。最近の動きとしては、連合町会の中の1つの町会が主催して、GISによる地域に防災対策を考えるワークショップというのを今年の4月に行いました。この町会の住民の人たちが参加して、さらにこれまでのワークショップに参加していた連合町会の人だとか、周辺の町会の役員さんも参加して行いました。これの目的としては、第1回に私たちが行ったようなことを町会主体でやっていこうという位置づけです。これは、国土交通省の事業で、GISをまちづくり団体で活動できるかどうかを検証するというような趣旨の事業がありまして、そこのモデルとしてこのまちづくり団体をたまたま選んでいただきました。これまでのワークショップに参加していた70歳代の町会役員の方々がGISの講習会を4回ぐらい受け、技術を習得した上で自分たちでワークショップをやるということをしました。最初は8名ぐらいがGISの講習会に参加していたんですが、講習会が1回、2回、3回と進むにつれて、ちょっと所用ができた方とか体調不良の方が出まして、最終的には3人、4人ぐらい残りました。その残ったうちの1人がこの東新小岩7丁目の方です。この写真の方です。この方が見事にGISを操作しながら、町会の人にこういった図面を見せながら説明していくということをされました。ちなみにこの方は、この回の前まで特別特訓を申し出てやっていまして、当日は「先生、夜も眠れなかったよ」なんて言いながら、それは見事にワークショップをなされました。この方は、メールもワードもされない、だけどGISは使えるという方です。やる気になればできるんだなと地域の方の力を感じました。感心というかとても感動しました。

 このワークショップをやりましてその後の動きとしては、隣の町会の方が「うちのまちでも同じことをやってくれよ」ということで、この方が隣のまちに行って同じことをやっているという展開につながっています。町会の中には、先ほどの東新小岩7丁目も含まれますが、独自の防災計画をつくっているところもあらわれてきております。

 あとはさらに、東京都に地域底力再生事業というのが一昨年度、創設されました。町会が何か企画を申請すると、それに対してお金がつくという事業です。この連合町会ではハザードマップに書いてある広域避難訓練の実験をやろうということで応募しました。結果、これは採択されました。ただし、申請するときに、採択されなくても実施するつもりで計画を立てられていました。これに関しては私たちの手ぼ離れ、もちろんサポートはするつもりですが、町会連合主催で動いています。

 あとは別の動きとしては、これは我々の動きです。「広域ゼロメートル市街地2058PLAN」というのをつくりました。要するに50年後のまちのビジョンを描くことを試みています。ワークショップでは100年後といって、皆さんが少しお笑いになったように奇想天外なものだったんですが、もうちょっと現実に引き寄せた50年後のプランをつくろうということにしています。この例の場合、小輪中、中輪中、大輪中というような輪中をつくって、その輪中の中で新しい市街地をつくっていこうというような考え方です。それに合わせて、川に背を向けるという川と市街地の関係性から、川ときちんと親しんでいけるような空間をつくっていこうというようなことをここでは提案しています。この計画自体はこれを実現しようという話ではなくて、気候変動をにらんで、数十年後を目指して長期的な対策が必要で、そのための布石をやっぱり今打つべき必要があるんじゃないかということを社会的にアピールするというか、社会的な議論を惹き起こすための仕掛けとして位置づけています。2058だけじゃなくて、2059、2060というのも全く違うコンセプトでビジョンを描いて社会に出していきたいと考えています。

 以上のように、この3年間、4年間でいろいろ試みてきました。最後に現状の課題と今後の展開ということでお話ししたいと思います。

 現状の課題についてはたくさんあります。1つは現場レベル、地域レベルですと町会の人たちには相当浸透しているし、地域の力が表出してきています。しかし町会に参加しないようなほかの層、つまりマンション居住者とかいわゆる新住民といわれる人たちにどう展開するか、あとは今後の活動の持続性を考えると、ほかの年齢層へ展開する必要があるだろうと、さらに運命共同体といえる近隣の地域にも展開する必要があるだろうというのが現場レベルの課題です。あと我々専門家の課題としては、この現場レベルの課題を解くための支援を次に考えることが挙げられます。それから研究レベルとしては、この今説明した事例は結果的にはうまくいったかなと思っていますが、ほかの地域でも成功するかというと、その保証はありません。つまり試行錯誤的にやってきて結果的に成功しているといえますが、他の地域でも普遍的に取り組めるように、今までやってきたことを見直し、誰でもできるように手法を標準化していく必要があるだろうと考えています。これができれば、大規模水害に対する地域主体での議論が普及するのではないかと考えています。それから社会レベルでの課題としては、これは特に長期的な対策についていえることですが、河川行政、防災行政、都市計画行政が必ずしも同じ方向を向いていないという気がしています。今回の地域の場合、川沿いに工場がまだ残っていて、その移転も考えている状況です。先程来の検討でいくと、そこを高台化すれば地域にとっては非常にいいことではありますが、現行の制度、仕組みの中では、必ずしも優先的に確保される形にはなりません。もう少し遠い未来を見ながらそれぞれの行政が連携できると、変わるのではないかという印象を持っています。

 あと全体を通して個人的な感想としては、やっぱり最初に申しましたGISとか客観的な情報の力というのは非常に強いと改めて感じました。特に理解を深めることに対して非常に大きな力を発揮することが実証されたと思っています。あともう一つが地域の底力というのが非常に強いというのが再確認できました。ですからこの強い力をどう上手に活かせるかということが社会的に重要と考えられます。異なる組織の連携が非常に重要と言うことも再確認されました。今後、我々も地域の方々と一緒に学びながら、社会としての解決策を模索していきたいと考えています。

 時間をオーバーしてしまいましたが、時系列であまりまとまりはないのですが、一通りご説明させていただきました。

 以上です。

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