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第7回 河川情報センター講演会 講演記録
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第7回 河川情報センター講演会 講演記録

 都市域にける氾濫解析の課題と今後の方向性

○開催日時 平成20年12月9日(火) 15:00〜16:30
○開催場所 広島YMCAホール2号館4階405会議室
○講  師 河原 能久 氏
 広島大学大学院 教授(広島大学大学院工学研究科社会環境システム専攻)
○講演内容
 広島大学の河原と申します。よろしくお願いいたします。

 今日私が説明させていただくのは、氾濫の解析手法についてです。話の要点を一口で申しますと、恐らく今後数年の間に、レーザ・プロファイラー、すなわち精密な地形データを取得するということが大きなきっかけになって、数値解析手法がさらに高度化していくだろうということです。

 

 御存じのことで恐縮ですが、福岡災害あるいは東海豪雨以来、記録的な豪雨、あるいは都市型水害、都市水害と言われるものが多発しております。とりわけ東海豪雨の場合は外水氾濫と内水氾濫が重なったということで、甚大な被害が発生いたしました。外水氾濫は現在でも起こり得ますし、内水氾濫は実際に頻発しております。

 今後どうなるかということを考える上では、気候変動に伴って豪雨や台風が増強されるという予測を考えることが重要です。   

 一方、少子高齢化もそうですが、我々の経済的・社会的状況も大きく変わりつつあります。また、国交省をはじめ行政の予算の縮小も大きな影響を及ぼしております。そのような変化を踏まえた上で、ハード対策をどうするか、ソフト対策をどこまで充実させるかという議論がなされておりますが、いつ、だれが、どのようにハード対策、ソフト対策を打つか、どのタイミングでどういう順番に行っていくのかということを決めていくべき状況にあると思います。

 これから水害が激化していくことを踏まえて有効な対策を立てるためには、今までの水害の経験だけでは効果的な対策を見つけることが難しいこともあり、意思決定をサポートするシステムを作成することが必要であると考えておりますし、我々がつくらないといけないと考えております。

 その要になる技術が本日お話しする氾濫の数値解析手法です。なお,計算技術だけではなく、洪水中にどこでどのように氾濫が起こっているのかを計測する技術、オンラインで取得したデータを活用する技術の重要性もますます高まっているように思います。

 私が今日説明させていただく内容は、大きく言って4つです。

 最初に、今年度の豪雨と都市水害の特徴を説明させていただきたいと思います。皆さん御存じのことなので恐縮ですが、まず整理させていただきたいと思います。

 二つ目は、ハザードマップに関することです。水害に関して、洪水ハザードマップ、高潮ハザードマップあるいは内水ハザードマップ等がつくられております。現在作成されているものについても様々な課題があることは皆様も御存じだろうと思います。その課題、さらにどのように改良することができるのかいうことに関して、これは実務とは少し異なり研究レベルの話をさせていただくつもりです。

 3番目は、表面流の氾濫、すなわち堤内地の地表面の流れと下水道の流れと河川を同時に解くということがいろいろの機関で行われつつあります。大学でもやっておりますし、コンサルタントの方々もやっておられますし、保険会社が関係しておられることもあります。まちの中の詳細を考慮した解析を行わないと本当に有効な対策あるいはリスク評価ができないため、表面流と下水道の流れの同時解析に対する重要性がますます高まってきていると思っております。本日はどのように考えるかということを説明申し上げようと思います。私の経験は限られていますが、そのような解析を高松市に適用した例を紹介させていただきたいと思います。

 最後に、そういう氾濫の統合解析、表流水も下水道も河川も同時に解こうというときにどのような課題があるのかということを説明申し上げようと思っております。

 さて、我が国に豪雨が発生するためには特別な仕掛けが必要です。強い上昇気流があることと周辺から大量の水蒸気が供給されるという、2つのメカニズムがないと豪雨は発生いたしません。

 例として、台風などに伴って地形性の豪雨が発生する場合がありますが、その場合には日降水量が大きくなるという特徴があります。

 一方、前線性の降雨で、特に停滞前線になるような場合、特定の場所にまとまった雨が降る、狭い範囲に強く降ることがあり、災害を招きやすいということがあります。今年の夏のように、南から湿った空気が供給されるようなメカニズムがある上に、上空に寒気が流入したために不安定な気象条件となり豪雨が発生したという例もあります。

 今年の7月の終わりから8月の終わりにかけて、台風は来ないものの、「ゲリラ豪雨」と言われるような現象が何度も起こりました。7月の終わりには神戸の都賀川で水遊びをしていた子供たちが死んだ事故、また、金沢市を流れる浅野川の氾濫、あるいは8月上旬では豊島区で下水道工事をしていた人たちが流されるというような痛ましい事故が起こりました。一方、8月下旬、これは気象庁が「8月末豪雨」という名前をつけたものですが、時間降雨量が岡崎で146.5mm、我々の近くの福山でも93mmを記録するというように、多くの地点で大雨が降りました。

 この図は、お手元の資料には入っておりませんが、8月末豪雨時の内水氾濫の写真です。こういう種類の豪雨や氾濫が増えております。

 次のこの図は、気象庁が2005年に発表したものですが,豪雨の出現頻度の変化をあらわしたものです。上の図が1日に100mm以上の雨が降る日数、下の図が200mm以上の日数を示しています。直線で近似するとやや増加している傾向にあります。詳細を調べると、6月から7月の増加率が高い、あるいは8月から9月が高いというような傾向がありますので、これは台風の影響が強くあらわれているのだろうと思います。

 では、実際に1時間の降雨を古いものまで調べたらどうなっているのかというのがこれです。これは、気象庁の人たちが遡れるところまで遡って、1時間降雨20mm以上の雨がどのように変化してきたかを見たものです。ざっと見ると、わずかに右上がりの直線のようですけれども、最近の30年間ぐらいを見ると、東京は顕著に右上がりになります。一方、名古屋ではそれほど顕著ではなく、わずかに増えている傾向があります。東京が近年何故このように増えているかというのはよくわかりません。

 現状はそうなのですけれども、将来どうなるのかということに関して、皆さんも見られたことがあるかもしれませんが、この図が示しています。最大日降水量は日本のほとんどの地点で増えるだろうと言われております。

 これは、21世紀最後の20年間と20世紀最後の20年間における最大日降水量の平均値を比較したもので、緑が濃いほど最大日降水量が増加するということを表しています。将来、最大日降水量はもっと増えるであろうと多くの人が考えております。

 これは国交省のホームページからダウンロードした図であります。残念ながら、温暖化解析の精度はまだそれほど高くないようで、小さな流域単位あるいは時間単位での降水量がどう変わるかという点に関して、精度のある議論は難しい状況のようです。例えば、瀬戸内海では大ざっぱに言って100年後には最大日降水量は1割ぐらいふえるという見込みだということを示しております。

 こういうような情報がどんどん集まってきているわけです。それに対してどういうふうに立ち向かうか、あるいはどういうふうに普段の生活やいざというときの生活、避難の仕方を工夫するか、そういう適応策を何とか考えないといけない、できるだけ早目に具体的に考えたほうがいいという話になっております。

 実は、「都市型水害」と書くか「都市水害」と書くかで悩んだのですが、お手元の資料には「都市水害」と書きました。河田惠昭先生の「スーパー都市災害から生き残る」を読むと、「都市化災害」「都市型災害」「都市災害」「スーパー都市災害」というように、言葉を使い分けておられます。「都市型水害」というのは、都市化がまだ完了せずに、インフラの整備が不十分なために起こる水害という意味です。「都市水害」というのは、インフラ整備が一応終わった段階で起こる大規模な水害という意味合いで「都市水害」という言葉を使っております。インターネット等で改めて調べてみると「都市型水害」と書いてあるものが圧倒的に多かったので、ここでは「都市型水害」と書かせてもらいました。

 この都市型水害が発生するとなると、当然、流れはいろいろな影響を受けて複雑になります。市街地での氾濫ですので、道路、建物をはじめ,さまざまな構造物の影響を強く受けます。例えばフェンスのような小さなものでも流れに大きな影響を及ぼしたり、複雑なことが発生するわけです。

 2番目に、都市域での議論をしますので、下水道を考慮しないわけにはいきません。下水道の役割が、降った雨を排除するという機能以外に、違うところから、本来集水域でないところから流れてきたような氾濫水も処理するという役割を担されてしまいます。厄介なことは、ポンプ場の放流先がどこになるかという話ですけれども、もしそれが河川であったりすれば、河川との調整が重要な問題になります。

 3番目に、建築基準法が変わりましたが、地下室等がふえました。それに伴って、思いがけず氾濫水がそういう低いところに浸入するということの危険性が高まっているわけです。地下街、地下鉄もそうですし、個人の家の地下室、半地下のような構造物に流れ込み,人命にかかわるような状況が発生しています。

 こういう都市域の内水氾濫のようなものであれば、外力としてはそれほど大きくない場合が多いわけですが、被害という観点から見ると、地下室等で亡くなったり、あるいは一般資産の被害が非常に大きくて、公共土木関係の施設の被害というよりもむしろ一般資産の被害が大きい。あるいは、重要なことは、都市の交通あるいは中枢機能が麻痺するということで、その影響が多方面に及ぶというようなことも特徴として挙げられると思います。

 このような状況が発生するのにはもちろん原因があるわけです。

 一つは、不浸透域、降った雨が浸透できないような面積がふえていることです。流域の保水機能が十分には確保されないために、その不浸透域の影響が強く出てしまっています。

 もともと氾濫する、あるいは水はけが悪いというので、住むべき土地だと思われていなかったところに宅地がつくられ、そこに住んでしまっておられます。土地利用の規制を何とかかけよう、かけるべきだという意見はこれまでも強くありましたが、その規制をうまく導入できませんでした。

 また、下水道あるいはポンプ等排水施設の整備がおくれてきたということもあります。

 それと、この数年の災害から、防災情報が提供されてもうまく利用できていないとか、あるいはその防災情報を受け取る側の住民の意識が低いという課題が、水害を大きくしたり、軽減できない理由になっていると思います。

 下の部分は、国交省の最近の動きを幾つかピックアップさせていただいたものです。一つは、水防法の改正ということで、最近2回ほど改正がなされました。洪水予報をしたり、中小河川の水位を知らせるという義務が生じていたりします。あるいは、そういうところの洪水ハザードマップをつくって周知しなければいけないとか、地下空間の管理者に避難確保計画をつくらせるというようなことも進みつつあります。それと、特定都市河川法がつくられたり、下水道を強化するということで下水道総合浸水対策緊急計画がつくられたり、内水ハザードマップをつくって公表したりされるようになっています。

 いずれにしても、いろいろ対策を打ってこられましたが、河川行政を担当している方々だけで水害を抑えろというのはもう無理だ、流域全体を見て、関連の行政の方々が協力して、将来の方向を見据えた上で総合的な対策を打たないとだめだというふうになってきたと思います。実際にどのような総合対策を打ったらよいのかを議論するためには、基本的なツールが必要になりますが,それは氾濫の統合解析技術だと私自身は理解しています。

 そのほかに行政と住民の意識の問題があります。行政の出す災害情報というのは、目の前に危険が迫っている住民を救うために出すという基本的な観点に立っていただいて、必要な情報をわかりやすく発信していただく必要があります。もう一つは、最後は住民の自助というところに期待せざるを得ないので、地域防災力の向上を進めようという動きが重要となります。

 これは、「内水ハザードマップの作成の手引き(案)」という、国交省の下水道部が出されているものの一部です。洪水ハザードマップと内水ハザードマップで検討する最悪のシナリオを示しています。私が議論したいと思っているのは洪水ハザードマップのほうです。洪水が越流あるいは破堤して氾濫するし、下水道も吐けないほどの大雨が降る場合をどういうふうに解析したらいいかということです。内水ハザードマップの場合は河川からの越流なり破堤による洪水を考えませんので、現実的に我々が考慮しなければいけないのは洪水ハザードマップの方だろうと思っています。非常に大きな水害になります。

 ここからは、現在、氾濫の解析をどういうふうに行っているのかということと、どういう課題を抱えているのかということについてざっと説明させていただきます。

 氾濫の解析は、氾濫する地形に応じて、いろいろな数値モデルがあります。ここでお話しするのは、2次元の不定流モデルと言われているもので、計算時間はかかりますが、汎用性が一番高いと考えられている手法です。

 通常私たちは、その地点の水深と流速、あるいは流速と水深の掛け算したもの、これら三つの未知量を解きます。氾濫流の解析に降雨を入れるかどうかという点に関しては、多くの場合、降雨を入れても入れなくても結果には大きな差がないということが経験的に知られています。都市域ですので、氾濫流とマンホールあるいは下水道施設とのやりとりが起こりますので、その影響は取り込みます。
これが水深を規定する「連続の式」と言われるものです。下の二つがそれぞれx方向、y方向の流速を規定する運動量の式になります。

 一つの計算のメッシュの中に違う土地利用がある場合には、建物などにより流れが遅くなりますが、その影響はマニングの公式で表します。式中の合成粗度係数nがメッシュ中に占める建物の面積割合とか水深によって変わるという定式化をして、そのメッシュの中にある建物の影響を取り込もうということをしています。多くの欧米の計算は、こういうことはされておりません。そのためマニングの粗度係数のチューニングという問題を抱えている場合が多くあります。

 次に、どのような座標系を用いて解くかという話です。

 この図は、京都大学防災研究所の川池健司先生の論文からの引用ですが、ここに主な道路があり、その横の黒く塗ったところに建物があると思ってください。こういう都市域の一部を解析するときに一番簡単な方法は、通常の直角座標系、x方向、y方向を設定するやり方です。

 この方法は、解くという観点からだけ言えば、計算の精度も高いし、計算のスピードも最も上がります。一番解きやすい形ですけれども、一見してわかりますように、たとえ粗度係数を用いて建物の影響を取り込むことにしたところで、やはり不正確です。建物や道路をきっちりと解像しているわけではありませんので、流れが正確に解けるかと言われると、やはり大きな差が出てくる場合があります。

 それを改良しようとして、道路に沿った、主要な道路に沿った曲線座標系を使って解析するということが2番目に行われました。しかし、今やこの方法は余りないと思います。これは、主要な道路は解析できますが、細い道路まで入れるということになると、メッシュをつくることが事実上難しいと思います。

 今、多くの研究者が一番やりたいと思っているのはこの非構造格子という方法です。三角形のメッシュを用いて道路の形状を正確に表現して解く方法です。

 これを可能にしているのはレーザ・プロファイラーだろうと思います。レーザ・プロファイラーで高精度の地盤高データを取得することができますので、それを使うと、何もデカルト座標系を用いなくても、非構造格子で十分に計算できるようになります。非構造格子を用いる方法は、レーザ・プロファイラーにはよくマッチする方法だと思います。ただし、メッシュの数によりますけれども、この方法では計算時間が長くなる傾向にあります。

 一番右側にネットワークモデルというのがあります。これも使うことは余りないと思いますが、主要な道路網を水路網とみなして解こうというやり方で、計算量は圧倒的に少ないわけです。しかし、主要な道路から水がはみ出さないならばいいですが、一般性は高くない方法だと思います。

 デカルト座標系を用いる方法で計算をする限り、メッシュを小さくとることによって精度を確保するという手があります。しかし、それでも道路の分解能は容易には高くなりませんので、精度を高めようとすれば違う方法を考えないといけないとことになります。

 都市域に限れば、道路のわきに家が相当建っているのが実際ですので、その道路に沿ったメッシュをとるというのは合理的なやり方です。もし家の密度が余り高くなくて、道路よりも地形の勾配の方が氾濫流の挙動に影響するところであれば、道路よりも地形を正確に表現するようにメッシュを作成した方がよいことになります。

 そういう解析をするときに、どういう計算の格子をとるかとか、時間ステップをどうするかとか、いろいろな問題があります。

 それには、実務上の話と研究上の話との違いがあります。洪水ハザードマップをつくるときには、50mよりも大きいメッシュを使ってされるのではないかと思います。一方で、内水ハザードマップをつくるときにはそれより1けた小さいぐらいのメッシュを使っておられるのではないかと思います。時間ステップも、計算手法によりますが、かなり小さい値を使っておられると思います。

 議論があるのは、研究者の立場で見ると、方程式の中でこの移流項をどう取り扱うかという点です。この項があると、計算時間もかかるようになりますし、時間ステップも小さくとることになります。実際、その項の値は大きいことが多いので、その項を精度よく解析する必要があります。洪水のフロントを正確にとらえる必要がどこまであるかという話に関係しますが、すでに様々な方法が考案されており、実務で使用できる状況にあると言えると思います。ただ、洪水のフロントをそれほど精度高く求めなくてもよい場合には、従来の方法でも結構かと思います。

 重要なのは、氾濫流の境界条件だと思います。特に破堤氾濫とか越流氾濫のときに氾濫流量をどう設定するかということが、致命的に大きな影響を及ぼします。氾濫流の解析をやっている方々は強く意識されておられるものだと思います。越流公式のような形で与えると、川の流れと堤防の角度によっては補正係数を入れないと合いません。我々は、河道の洪水流も堤内地の氾濫流も2次元で計算をすると高い精度で氾濫流量を計算できるということを知っています。

 それと、レーザ・プロファイラーのデータが手に入るような場所、国交省では今後レーザ・プロファイラーのデータをオープンにするような動きがあるやに聞いておりますが、河川内だけでなく堤内地の地盤高のデータも取得されていれば、数値データとして50mメッシュや都市計画図のデータを使ったものより、はるかに良好な結果になるという話を聞いています。ですから、レーザ・プロファイラーのデータによって信頼できるデータがとられるような状況になりつつあるということを考えますと、この部分は近々随分よくなると思います。

 あとは、建物の形状を取得するために住宅明細地図のようなものが必要になります。

 地盤高の精度が上がってくると次に必ず起こるのは、粗度係数はどう決めるのかという議論です。特にレーザ・プロファイラーでの解析を進めているイギリスは、水害保険の関係があるものですから、氾濫の解析に対してシビアな議論をいたします。彼らは地盤高のデータをレーザ・プロファイラーでとっていますけれども、その後に粗度係数を場所ごとにどのように与えるかという議論です。日本の場合、粗度係数は一様に与えているのではないかと思います。都市域ですから、計算メッシュよりも小さいスケールの現象がいろいろあります。小さい現象の影響をどのように取り扱いかということが粗度係数の決め方と同時に起こる話です。

 この資料は、お手元の資料の中にはありません。私が論文中の図面をスキャナーでとってきたものです。1988年、南フランスで大きな水害が起こりました。ニームという、観光地だろうと思いますが、ここに大きな水害が起こり、2002年だったでしょうか、もう一回大きな水害が起こりました。それで、境界条件を変えたり、計算条件を変えたりして再現計算を行っています。そのうちの、一番効くものではありませんが、彼らは道路の標準的な断面をこういうふうに七つのポイントで表しています。それを五つの点にする、あるいは四つの点にするように、道路の断面形状の近似度を低下させるとどのくらい水位が変わるかという比較を行っています。七つのものを四つにすると水位が十数センチ上がるというような結果を出しています。もちろん、七つのポイントとこの一番下の絵を比べれば、底面の高さを上げていますから、それに対応して水位が上がるのは当然です。ですが、そういう議論をして、特に道路断面あるいは交差点での水位の計算に大きな差が出るというような議論をしています。ですから、信頼できるデータがそろってくると、そういう種類の問題点が表に出てくると思います。

 ここからしばらくは、うちの研究室で行ってきたことを紹介させていただきます。

 先ほども申しましたように、これからの氾濫計算は、デカルトの座標系、つまり直角の座標系を踏襲するか、それとも非構造格子と言われるようなものを採用するか、どちらかになると思います。

 非構造格子は、計算する側からすると、複雑な形状は全部取り扱えますから、すごく魅力的ではあります。ただ、非構造格子と言っても、その格子よりも小さいスケールの現象がありますから、それをどういうふうにモデル化するかという問題点はまだ解決されているものではありません。

 これはデカルト座標系で、背景に住宅明細地図があって、その上に道路と思われるところを青く塗り、建物が多く占めているところを茶色に塗ったものです。見比べていただくと、背景の絵と同じようにはとても見えないわけです。これで計算をしようというわけですから、その計算結果が悪影響を受けてしまうのはやむを得ないところです。

 うちの研究室ではデカルト座標系で計算してきました。それは、計算結果の利用の面で有利だろうということで選びました。

 従来のデカルトの座標系で解けば精度が悪いことは当然わかっていますので、工夫をしようということで二つのことを行いました。流れの解析精度を上げるために従来の方法にはない新たな負担をどこかにかけることになります。

 一つは、基礎方程式をもう少し精緻にするということです。二つ目は、精度を上げるために基礎方程式を高精度で解くということです。正しい結果が出ないのは、基礎方程式にかなり無理がある、先ほどの絵で見比べてもらったように、従来のままであれば正しい街路形状をあらわしていないのだから、これでは無理だ、もっと正確なことをやりたいということです。

 一つ目として、絵がきちんとそろっていなくてすみませんが、これが一つの計算のメッシュだと思ってください。このメッシュ中に建物が存在していると思ってください。このメッシュでは、水が左から右にこう流れようとすると、ここに建物がありますから、当然、水は流れていかないわけです。ところが、今までの方法ですと、こういう建物等の影響はみんなマニングの粗度係数で表現しますから、水は左から右に流れることができてしまいます。ですが、建物があってここを水が通らない条件になっているということを表現すれば、水はこうしか流れないわけです。そのために、ここの隣り合うメッシュの境目がどれだけあいているのかというデータを使おうというわけです。ここは完全に閉まっていますから水は一切流れることができない、幾何学的にここは通過できないというふうにさせようということです。

 もう一つは、この中に建物が全部あるわけではなくて、そのうちの一部しか建物が占めていないというので、そこには「空地率」と書きましたけれども、これは水が占める体積割合です。こういう特性を基礎式に入れてもう少し厳密に解いてやろうというわけです。しかし、そのようなデータが必要という意味で、負担は増加します。

 そうすると、もともとの連続の式に、二つパラメータ、「空地率(λ)」と書いたものと「通過率(β)」と書いているものが入ってきます。こういうデータは、残念ながら簡単には入手できないのですけれども、できるだけGISを用いて算出したいと思います。我々が計算したときには、住宅明細地図にメッシュを重ねて、学生に絵をかいてつくってもらいました。非常に時間がかかりました。

 運動量の式は、今まではこういう式ですけれども、一つのメッシュの中に水がどのくらいの体積を占めるかとか、メッシュの境界での開口度合いというようなものを入れたのと同時に、もう一つ新しい項、メッシュよりも小さい構造物、植物とかフェンスというようなものが流れに抵抗を及ぼすことがあるわけですので、その効果を表現する項をきちんと取り込まないとならないと思います。この項の表現方法や大きさはまだよくわかりません。この項の表現の仕方は今後の都市域の氾濫解析において大きな課題になろうと思います。

 以上のように、幾何学的な特性を考慮して、基礎式の表現を精緻化しました。

 もう一つの改良は、方程式中の非線形な移流項をもより高精度に解くというやり方です。
これはやや細かな話で恐縮です。メッシュの真ん中で水深を求めようとし、この両わきに流速を定義するということを数値解析ではよく行います。その方法でも悪くはないのですけれども、我々はもっと高精度の計算を行いたいので、別の手法を使うこととしました。

 この方程式ではfが未知数です。uは今の場合には与えられていると思ってください。これは、波が変形せずに、uが正ならばx方向に移動していくという、「波動方程式」と言われるものです。

 従来の方法で解くと、例えば下の絵で説明すると、最初にこの黒い点でこういう波があったとします。それで少し時間がたつとこの波は変形せずに右側に動くというのがこの方程式の答えです。

 それを黙って点だけプロットすると、この点はこの点に、次にこの線はここに移動するので、ここの点になります。それを折れ線で普通は結びたくなるわけです。

 この方法では近傍の多数の点を用いない限り精度は高くなりません。これは日本人が工夫してつくった数少ないスキームですが、CIPという名前で呼ばれている方法です。今、東工大におられる矢部先生がつくられたものですが、どういうことをやるかと言うと、この方程式をもう一回わざとxで偏微分したのがこれです。今のところはuが定数だと思ってください。そうすると、この偏微分もまたもとの方程式と同じ形になります。ですからfもこのfの微分も同じ方程式に従います。当初、CIPスキームという名前は、「キュービック・インターポレーション・ポリノミナルズ」と言って、3次多項式で近似するという名前でした。

 点と点の間を直線で結ぶとか、あるいは3次多項式で結ぶというのではなくて、この点の値もそうですけれども、この勾配も未知数として同時に解いてしまおうとすると、ここのところは真っすぐなものが計算できます。ですから、洪水の先端部をきれいにとらえることができるようになります。

 もう一つのやり方は、これの別版ですけれども、これを積分すると積分量もまた同じ方程式に従うということを利用して、このfの値を求める以外に、このfの積分値、言い換えれば区間の平均値、積分の上限と下限の距離の差で割り算すると平均値になりますので、未知数そのもの以外に、その区間の平均値も計算してしまう方法が考えられます。こういうやり方をすると、予想以上に高精度の計算ができます。

 細かいことは省略させていただきますが、これは破堤が一気に起こったときの計算結果を示しています。ここにもともと水がたまっていて、この壁が一気に取り外されたときに水が流出していくときの計算です。これはベンチマークテストとしてよく使われるものです。例えば、50mと80mとありますが、一つ目のメッシュが5mぐらい大きくても、私たちが使っているCIP方では問題なくというか、意味のある計算ができます。

 もっと極端な場合がこれです。斜めに道路が交わっている場合で、ここの水位を一定に保つと水が街路の中に進入していくわけです。この道幅が10mありますが、計算格子に道幅と同じ10mを使うと、通常現象は再現できないと思うわけです。ところが、積分した量が保存されるような解き方をするので、格子の幅割る道路の幅のところ、1.0というのを見ていただくと、この辺の青い、この辺の精度です。ですから、非常に細かいメッシュと比べて、もちろん精度は少し落ちますけれども、それでも高い精度の計算ができます。普通、道幅を数個くらい分割しないと正しい答えは出ないように思うわけです。けれども、平均の水深を求めようとか、平均の流量を求めようというレベルですと道幅と同じぐらいのメッシュを使うことができるという意味で、精度を高め計算の負荷を下げるためにこういうやり方をとっています。ただ、メッシュを細かくすれば、もっと高解像度の結果には当然なります。

 これは我々のところでやっている実験で、話が変わって恐縮ですが、洪水のときに、大雑把には家にかかる力はその周辺の水位から算定できそうだという話です。

 これは水槽を上から見たもので、これが外形ですが、上流側から水を供給して、ある時刻にここの仕切っていた板を外して水がざっと流れるということで、破堤を模擬して行っている実験です。そういうときにこの流れがどうなるのかということですが、上は計算です。今お見せしたようなところでどんな流れが起こるのかというわけです。

 ここでは射流です。建物の前で跳水が発生し、それが広がっていくという場合です。この建物の後ろ側の点で計算値と実験値を比べると、ほどほどに合います。ですから、こういう基本的なものであれば、大きな問題なく計算できます。

 もう一つは、建物にどういう力がかかって、氾濫の計算の中に建物の影響をどう取り込んだらいいのかということを検討するために行ったものです。これはブロックを四つ重ねた建物のイメージですけれども、それと同じ寸法の水槽を透明のアクリルでつくって、その中に分力計を入れて、底面からちょっとだけ浮かして、水が底面に沿ってわずかは流れるという状況をつくりました。こういうやり方で流体力がはかれるのかというのをチェックしました。真ん中にこの装置を設置して、上流側と下流側の水位差をはかり、分力計で直接このケースにかかる力をはかったものと比較してみると、全水圧の差は非常によく合います。ですから、0.25mmと書いていますが、ごくわずかだけあけて上からこういうものをつるせば流体力を精度よくとれそうだということを確かめました。

 それをもとに、実際にこういう建物の模型のようなところに水をぶつけて、一番先端、真ん中、一番後ろというところで流体力をはかりました。ちょっと見えにくいかもしれませんが、青くなっているのが実験結果、分力計で求めたものです。

 一方で、このピンク色になっているものは、この装置の前と後ろにサーボ式の水位計を設置しておいて、ここの水深とここの水深がわかれば、前も後ろも静水圧の分布をしているとして算出した結果と比較したものです。一目でわかりますように、静水圧近似で算出した値は直接計測した流体力に非常によく追従します。最初は第1波がどんとぶつかったときのものです。その次の波は壁の反射波と上流から来るものと重なって起こっています。これは実験装置の都合でできるものです。でも、こういうところを見ても、あるいは後ろのほうを見ても、流体力は静水圧近似で、そう大きく違うとことはないと今のところ思っております。

 ですから、とりわけ意識して入れなくても、流れの運動量の式は静水圧の分布を仮定したモデルですので、特に問題なく計算できると思っています。計算した結果から建物にかかる流体力を算出しなさいと言われると、それは難しくなくできると思います。

 今度から3番目の話ですが、そういうものを踏まえて、氾濫の計算というのは前より少しは精度がよくなった、次は下水道をどうするかとか、河川の流れをどうするかという話になっていきます。

 これは広島デルタに関する国交省のデータをお見せしているだけですが、今から4年前の台風18号のときにもし満潮と重なれば大きな水害、浸水が起こったであろうとか、翌年の台風14号のときの雨がもうすこし長く強く降れば広島のかなりのところは水没したであろうというような情報が出されたわけです。この台風14号による出水が大田川にとって近年最大の洪水だったわけです。

 私は4年ほど前に広島大学に参りましたが、その前、4年半だけ香川大学に勤めさせてもらったので、高松の情報を幾つか持っております。

 私は2004年10月1日に広島大学に赴任しました。その2004年の夏にたくさんの台風が四国を襲いました。最初は台風16号で、18号は先ほどお見せしたものですけれども、18号は強い風台風でした。16号は、満潮と重なったので瀬戸内海の東部が大きな高潮に見舞われたものです。高松でも海水が浸入して大きな被害が出ました。

 同じ年の台風23号、これは10月半ばぐらいだったかと思いますが、このときにも内水氾濫が起きました。高松市の別の地区では川からの大きな氾濫がありましたけれども、中心市街地では内水氾濫が起こりました。

 こういうようなことを経験してみると、高松が全く違う形の水害を同じ年に2回、正確に言うと、もう少し小さい規模も含めると3回ぐらい水没しています。これは幾ら何でもひどいのではないかと思い始めたわけです。

 その後で、私は河川環境管理財団からの支援を受けて、ハリケーン・カトリーナの調査に、土木学会の団長として行かせてもらいました。堤防が壊れるという予想していなかったシナリオで大きな氾濫が起こりました。事後解析では、下水道が早めにとまってしまったために、吐くことができなかった水量があったという結果になっています。ですから、高潮、外水、内水などの異なる水害に対して、使えるものを全部使って復旧しなければいけない、洪水の最初から最後までを議論できるようなツールがどうしても欲しいと思うようになりました。

 ここにお示しするのは、その統合解析をするときに一体どのような現象を対象とするのかということのポンチ絵です。雨はもちろん、堤内地側というか、市街地に降ります。これが大きければ、降った雨は吐けずに、堤内地の中を移動することになります。堤内地の中に下水道が整備されていて、そこにまだ流れる余地があれば、下水道に入って流れます。ところが、低地のところで上流からたくさんの水が下水道を通ってきて下流のほうであふれるという現象があります。そうすると、下水道から堤内地に水が戻ります。これがまた下流に移動していって違うところで下水道に入るというような現象が起こります。

 一方、川からあふれるという現象も当然起こりますし、下水道で集めた水を川に吐くとき、自由に吐けないとか、場合によると川から逆流するとか、そういう種類の問題もあります。こういうような問題を取り扱う数値解析コードをつくるためには、地表面を氾濫水がどう流れるかという問題と、下水道内でどう流れるか、川の中で洪水がどう流れるか、場合によっては河口の感潮区間も含めてどう流れるかという問題に対応することが必要です。それぞれの現象に対して、これまで多くの人がさまざまな解析手法をつくってこられたわけです。厄介なのは、例えば川からどのくらい水があふれるか、氾濫する流量をどう推定するのか、下水道と地表面を流れている水との間のやりとりはどのようにモデル化するか、そのような問題は、実務では幾つか行われていますが、検証なり改良する余地があると思っています。

 これは内水ハザードマップの本から抜粋してきたものです。コンサルタントの方々は独自に解析のソフトを持っておられ、統合解析になっているかは別としても、解析されていると思いますが、市販のコードとフリーのソフトの例が示してあります。

 国交省の国総研からNILIMのバージョン2というのが公表になりました。ソースコードがオープンになっていると思います。

 それ以外に、市販のソフトということで下水道解析の方から、下水道のメンテナンスとかオンラインでのポンプ場の操作のためにつくられているソフト、イギリスのウォーリングフォードでつくられているInfoWorksとか、DHIのMouseとか、XP-SWMMのような三つのメジャーなソフトがあります。

 これらのソフトは、下水管のネットワークを計算するだけでなくて、このごろではそこから溢流した水も計算をするようになっています。この氾濫解析の基礎式は、先ほど言いましたように、2次元の平面の不定流の計算になっています。日本のように粗度係数を水位によって変えるようなことは行っておりませんが、線状の構造物という薄い構造物を入れるとか、いろいろなオプションを持っています。外水氾濫の計算には今はまだ耐えられないと思いますけれども、内水氾濫は相当計算できるような状況になっています。

 どの方法もそうですし、我々も当然そうなのですが、解析エンジンは、先ほど申しましたように、四つ必要だろうと思っています。一つは、損失降雨をどう評価し、余剰水がどう流れていくか、余剰水の量を解析する流出解析コード、地表面を水がどう流れるかを解析する氾濫解析コード、下水道の解析コード、それと河道内の洪水解析コードです。洪水解析は多くの場合1次元の計算ですが、先ほど申しましたように、氾濫流量を精度よく解析するつもりだと、メッシュは少なくても2次元解析にすることのメリットは相当あると思います。九州工大の秋山先生、重枝先生の研究成果を参考にされると、2次元計算を行うことのメリットはわかっていただけると思います。

 そのほかに、GISを使って処理をしています。

 降雨の流出解析は、まだ完成版とは言えない状況ですが、既往の多くの解析と同じように、ホートン式で浸透量を評価するとか、窪地貯留で考慮するとか、蒸発量の算定を入れて余剰水の分布と量を決めるという作業をしています。

 下水管網の解析は1次元解析です。パイプが満管状態で流れる場合も開水路の流れとして流れるかも計算できるようにするために、多くの人たちと同様に、プライスマンスロットという幅の狭いスロットをつけたパイプを用意して計算しています。実務的には特に問題なく使えると思います。
下水道を考慮して計算するというわけですが、高松の情報で、こういうデータを学生に色塗りしてつくってもらいました。建蔽率のようなもの、あるいはそこが不浸透域かどうかというような分類、パラメータは有効降雨を計算するのに使ったものです。

 これは高松の地形図、等高線図です。私たちは、50mの数値地図以外の地盤高のデータを入手することができなかったものですから、RTK(リアル・タイム・キネマティック)のGPS測量をしに行きました。香川大の先生方がはかっておられたデータがありましたが、それに追加することでもっと細かいデータをつくりました。線路の上のデータがないものですから、それは自分たちで線路に行ってはかりました。レーザ・プロファイラーのデータがあればそんな面倒くさいことはきっとなく、もっと質のいいデータがとれるのだろうと思います。きっとあるのではないかと思って期待していますけれども、我々がやろうとしたときにはそのデータがすぐには入手できなかったので、自分たちではかったデータを基に地盤高データをつくりました。

 高松市には所々にアンダーパスがあります。アンダーパスは実は瀬戸内海からの海水が中心市街地に浸入した重大な経路です。ですから、このデータを入れないとだめです。鉄道の線路の上を越えたかどうかというのは議論があったのですが、若干越えた可能性があるのです。ただ、線路の中に立ち入っていなくて、踏切の真ん中でしかデータをとっていないので、必ずしも正確な地形図にはなっておりません。

 高松のまちは、もともとの陸地に比べると、歴史的に埋め立てによって海に向かって拡大していったところです。塩田の跡があちこちに残っています。ここの青色になっているのは標高の低いところですが、ここは塩田の跡です。以前の国交省の事務所があるところも地盤の低い場所ですので水が集まるという地形になっています。

 高松の市役所の方々は、台風16号の高潮のときには見張りを張りつけて、海水が入るとなった時点で引き上げました。どこの堤防が低いのか、どこに水がたまるかは事前に知っておられました。ですが、どうしようもないのであきらめたという話を聞いています。

 下水道を考慮して計算をしているのですが、下水道の効果が出てくるのはもちろん限られています。下水道網の図もお見せしなくて申しわけございませんが、こういうような計算ができます。下水道を入れて、あるいは入れないで計算すると、下水道により氾濫水の抜けやすいところが判明しました。

 下の図はアンケート調査をもとにどこが水につかったかを整理したものですが、下水道ありの計算結果の方がアンケート調査結果に近いものとなっています。ただし、ぴったり合っているわけではございません。

 台風23号時の内水解析も行っておりますが、内水氾濫の再現は難しいです。外水氾濫では、越流水量がわかれば、氾濫水は基本的には地形に沿って流れてくれるので、そんなに変な答えは出しません。しかし、内水氾濫の場合は厄介でして、下水道のどこであふれるかということが正確に評価できないとなりません。違う場所であふれると当然違ったように水が流れていってしまいますので、まだお見せするような状況にはありません。一応計算は終わっていますが、改良の余地があると思っています。
ここからは最後のお話です。

 いろいろな会社や組織が氾濫の統合解析をやりはじめておられます。私の経験は限られておりますが、今何を考えているのかをお話しさせていただきます。

 氾濫統合解析にはいろいろな課題があると思っています。まずデータに関する問題、それと解くべき方程式に関する問題、それと解析結果の使い方の問題というふうに、三つに分けてお示しします。

 はじめに、データの整備に関する課題の一番重要なのは、先ほど来お話ししているように、レーザ・プロファイラーで精度の高いDEMをつくることだと思います。レーザ・プロファイラーのデータより作成された地形データを用いた結果、浸水範囲などが相当に合うようになったと実話を聞いていますので、そのようなDEMを使うことのメリットは歴然としていると思っています。今後これが普及するようになると期待できますので、そういう意味では、氾濫解析の一番基礎のデータはこれから蓄積されていく方向にあると思います。

 その次に待っているものは、先ほど申しましたように、粗度係数はどういうふうに与えたらいいか、計算メッシュより小さな現象の流れに与える影響をどのように評価するかという問題です。今までは、多くの場合、一様な粗度係数を与えていましたけれども、地形の誤差が小さくなった段階でこの問題が表に出てくることになると思います。どういう土地利用ではどのくらいの値ということをもう少し精度よく検証しなければならないし、実際の都市域を考えると、これはまだ難しい問題として残ると思います。

 2番目に、これも先ほど申し上げましたが、堤内地への氾濫だけを計算するという立場に立つと、氾濫流量をどう指定するのかということが大きな問題になります。特に外水氾濫の場合、これをどうするかが大きな影響を及ぼします。洪水流の解析も氾濫流の解析と同じように2次元のコードで計算してもらうと、破堤氾濫のような場合には相当に精度の高い氾濫流量が計算され、その計算結果は越流公式より精度がよく、さらに、いろいろな状況の氾濫に対しても精度がほどほどによい値を与えるものと思います。洪水解析を1次元計算で行われる場合には、越流公式を注意深く、実験結果などを参照して使用する必要があります。

 3番目は、破堤、越流によって流入する氾濫水の体積に比べて地下空間にたまる水の体積が少なければ、地下空間のデータは要りません。しかし、もし大きな都市で地下街を取り扱うとなると、地下空間のどこに、どれだけ水が流入するかを検討したり、避難にも関連しますので、このデータを整備しないとなりません。

 4番目として、低平地では、下水道で氾濫水を吐くしかないことが普通です。このデータの整備が意外におくれていように、個人的には思っています。私たちも実は広島のデルタ全体を解きたいと思って今準備していますが、広島市にお願いしてこのデータをお借りしないとならないと思っています。もちろん、下水道のデータがあるとしても、どこまで細い下水管まで解析するのかという問題は残ります。

 基礎方程式については問題がまだいっぱいあります。

 私はXP-SWMMというソフトウェアを使って計算することがありますが、それは個人的には相性がよくないのです。なぜかと言うと、XP-SWMMが流出解析において概念モデルを使っているためです。対象地区を計算メッシュに区切ってその上ですべての現象を解析するというやり方をとればすっきりするのですけれども、マンホールの集水域はある概念モデルを用いて計算し、降った雨は1回マンホールに入れるという形で流出解析を行いますので、下水道がないところをどうするかなどの問題があります。そこで、自分たちが開発しているモデルでは改善したいと思っています。こういう氾濫解析のコードは、10年に1回とか20年に1回ぐらいしか使うチャンスがその地区にはないようなものですで、概念モデルの使用やパラメータのチューニングが難しいモデルの使用は避けて、物理的に明快で必要なパラメータの数が少ないモデルをつくりたいと思っています。

 それが1番目ですが、その物理モデル化が一番おくれているのは、損失降雨をどう評価するかとか、あるいは屋根に降った雨、道路に降った雨がどれだけ下水道に流入するか、この部分のモデルはまだ物理モデル化しているとは言い切れないと思っています。

 2番目は、大きな注意を引く部分です。特に研究者の注意を引く部分だと思います。
計算格子の中にいろいろな建物とか、樹木とか、場合によるとフェンスのようなものがあります。フェンスのようなものは、厚みは薄いわけですけれども、流れに大きな影響を及ぼします。こういう種類の問題をどう取り扱うか。数値計算は、メッシュより大きい現象を解析しますが、メッシュより小さいスケールの現象について何も教えてくれません。計算格子より小さい物体が流れに及ぼす力は抗力という形で評価されることになると思います。ここには「サブグリッドモデルの精緻化」と書いています。今後、典型的な都市域を対象としてその適切な表現方法を見つけるという研究が行われていくと思います。

 3番目は、河川ほど大きくないけれども影響があるという側溝のような問題をどうするかということです。多くの人は計算メッシュに沿って1次元の水路としてモデル化しようとしています。考慮しないわけにはいかないけれども河川のように取り扱うわけにもいかないというので、1次元解析でいいだろうと思います。

 先日も京都大学の防災研究所で研究集会があったのですけれども、早稲田大学の関根正人先生は、道路の側溝やマンホールはぜひともモデル化したいと強調しておられました。内水氾濫のとき、下水道から逆流するといいますか、噴き出すような流れの取り扱いが都市域では重要だということです。側溝やマンホールの情報をどのように取り込むのか、全部行うのは当然不可能ですし、屋根排水と道路排水の下水管を二つ分けるとか、いろいろなことを考えていかないとなりません。下水道と地表面、とりわけ道路を流れる氾濫水との相互関係がとても重要ですので、その相互関係のモデル化はどうしても避けて通れない問題だと思います。

 マンホールから噴き出す水量とか、マンホールに落ち込む水量をどう計算するかとか、それらのモデルも経験的なものから水理学的に明確なモデルに変える必要があると思っています。

 5番目は、これも河川分野の人がやり始めておられますものですが、氾濫水が階段を伝わってどう地下空間に浸入するかに関するモデル化が必要だということです。

 最後は、上のものとちょっと違います。現状でどういう氾濫が起こっているかを推定しようとすると、堤防の決壊の進行を考慮した氾濫解析をやらないといけない、決壊幅の観測値を与えて計算するという話になろうかと思います。その手法が確立されるまでにまだ時間がかかると思いますけれども、そういう方向に進むと思います。

 これは課題の中の3番目、検証についてです。氾濫は、先ほども申し上げましたように、めったに起こるわけではないわけです。ですから、解析モデルが使えるかどうかの検討には、検証をどうするのか、すなわち、モデル中のパラメータをどうキャリブレーションするのかという話と、それを使って実際に起こった現象をどのくらい再現できたのかという議論が必要となります。残念ながら、現状では氾濫時のデータを共有するという体制にはなっておりません。これには組織をつくって進めるしかないと思います。研究者を含めてみんな必要だと考えていると思いますが、残念ながら具体的な動きはありません。

 活用に関するものとしては、軽減対策のメニューの頭出しをしてもらって、氾濫解析を使ってそれらの対策をどういうふうに評価したらいいのかという手法を整理することが必要になろうと思います。

 いずれにしても、水害のリスクを評価する、定量化する作業が必要です。例えば浸透施設の設置を考えるのであれば、それのモデルを解析ソフトに入れることは可能です。水循環の解析ではそういうことをやっておりますし、氾濫解析でやっている事例もあります。さまざまな対策に対して、改めて整理して統合解析すれば今までと異なるシナリオの評価も可能になり得ますので、そういう整理をする必要があるだろうと思います。

 もう一つは、どういう情報を発信するかということです。今まで出していた情報と少し質が異なるようなものを出せるかもしれません。それは避難だけではなくて、復旧での交通流を制御するというような使い途もあろうと思います。

 最後に、いずれにしても、データ量が膨大にふえていく方向です。コンピュータの能力ももちろん上がっています。ハードウェアの工夫が進んで、安くて速く計算できるものがいろいろ発表されています。そのハードウェアを活用しより強力な数値解析を可能にするという話と、モニタリング結果を組み合わせる解析技術を確立することです。今はモニタリングと計算を別々にやっています。

 気象庁の方々は今、双方向の予測を始めようとしています。彼らは今、アンサンブル予報で気象予報をやっているわけです。台風で一番よくやられていると私は理解しているのですが、初期値を変えていろいろ計算をします。アンサンブル予報をやっている人たちは、どこの地点のどういう量をはかるとその台風の進路予測の精度が一番上がるのかということを知っているわけです。この地点のデータがあれば精度が上がる、そのモデルの結果はそこのデータにすごく敏感だということを知っているので、そこにセンサーを落とし計測するわけです。要は、「ここがキーポイントになる」ということを知って、そこにセンサーを落としてデータをとり、その結果をもう一回予報に使うという作業をします。四、五日先の台風の計算にそういう試みが始まりつつあります。過去の例を見ると精度が随分上がった、台風が日本を直撃すると言っていたのが直撃しなくなったとか、そういう話が気象関係の雑誌などに載っています。

 ですから、我々の分野においても、ここのデータが要であり、もしかするとそれは破堤部かもしれませんが、そこでのデータをとればもっと精度の高いリアルタイムの解析につながるかもしれない。きっと地域ごとに「ここで水位があると精度を落とさなくて済む」というような議論ができるようになって、それがリアルタイムの解析につながっていくのではないかと思っています。

 これはお手元の資料にはありません。私は、今から10年ぐらい前に、当時の土木研究所にお世話になりました。そのときには都市河川という研究室におりました。そのときに、つくばエクスプレスが開通すると流域がどうなるかというので、そのためのモニタリングや水循環の解析プログラム(WEPモデル)をつくっていました。正確に言うと、今は中国に戻って活躍している教え子がつくりあげてくれたものです。水循環の解析なので、1年間を通して計算しています。一つのメッシュの中に、建物があったり、木があったり、川が流れていたり、井戸があったり、下水管があったりし、地下水の動きも解きますし、川の中の水の流れも解きますし、熱の輸送も解きます。例えば防災調整池をつくるとか、浸透施設を入れると水循環にどんな効果があるかという評価ができます。普通の場合、時間刻みは1日で、雨が降ると1時間という時間刻みで、何年も連続して計算しておりました。

 私の氾濫統合解析のイメージは、こういうモデルの中に、大雨が降ったときには時間刻みが場合によると1秒以下とか、非常に短いスケールで,かつメッシュ単位で計算していくというような形に最後は落ちつくのではないかと思います。私があと何年勤めるかよくわかりませんが、少なくとも水循環の解析と同様に動くようなコードにしたいと願っています。

 これはお手元の資料にはありません。さっきも言いましたように、ヨーロッパでは保険にかかわる問題が非常に重要な課題としてあるものですから、いろいろな国が氾濫解析とかリスク評価ということに大変熱心になっています。もちろん、地球温暖化、気候変動の話を受けてもそうですけれども、今年「Flood Risk Management」というジャーナルが出ました。イギリスはこういうところでリーダーシップをとろうと思っているようです。

 いろいろとお話しさせていただきましたけれども、内水、外水、高潮あるいはそれら二つが重なるということが起こっているので、それらに対応するような技術をつくり上げる必要があるだろうと思います。ハリケーン・カトリーナのように、我々が今まで経験してきていないような広い範囲で、あるレベルを超えるといろいろな種類の問題が同時に、予期せぬものがたくさん起こります。そういうことも念頭に置いて、どういう有効な対策が考えられるかということを解析するようなツールをつくる必要があるだろうと思っています。

 氾濫統合解析のようなツールを使って、どういう被害、あるいは確率はどうだというようなことを組み合わせて、水害のリスクを定量化して、具体的にいつ、どういう対策を積み重ねていくのかということをつくる作業が、とりわけ行政には求められているのだろうと思います。

 最後は私の個人的な希望です。日本では毎年どこかで災害が起こっているわけですけれども、日本でつくられたような精緻な技術を何とか取りまとめて、とりわけ開発途上国向きに使ってもらえるようなことをしたい。いろいろな市販のソフトが出回ってしまっていますけれども、精度が高い、あるいは検証が十分できているということを売りにするようなことで何とか貢献する道はないかと考えています。

 以上で私の発表を終わります。御清聴どうもありがとうございました。

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